百二十八の城
西の丸庭園内の石の上を訪ちゃんがピョンピョンと飛び跳ねながらどんどんと先に進んでいった。
キレイな池と池の上の小さな庵が侘び寂びを感じさせるような気がした。
庭園を中頃まで進むと池の奥に御橋廊下の入り口が私達の目に飛び込んでくる。
あれが今噂の御橋廊下なのだ。
ただ堀に掛かった橋を渡るだけなのになんだか旨が高鳴って遊園地のアトラクションに今から乗るようなそんな気分になってくる。
「あれが御橋廊下、なんか入口の部分が完全に開けていて長屋の形をしたトンネルみたいです。」
私は間口の広い御橋廊下を見て少し興奮してしまっていた。
和歌山城に到着して私達の目に一番最初に入ってきたのが御橋廊下だ。
まだ一度も入っていないとは言えなんとなく思い入れがあるものだ。
そして何より珍しい施設であることに違いはなかった。
訪ちゃんは私達よりもずんずんと先に進んでいたため御橋廊下の入口前で私達に手を振っていた。
私達も簡単に手を振り返すと少し足早に訪ちゃんのもとに向かった。
「相変わらず近くで見ると中々の作りの橋よね。」
先輩は橋を見て感心をする。
そして近くで見ると外で見るよりもかなり西の丸側に低く傾斜していた。
「前来た時は二の丸側からこっち側に下ったんやったっけ?」
訪ちゃんは過去の記憶を引っ張り出してそう言うと先輩は頷いた。
「うん、そうよ。」
「あの時は意外につるつると滑りそうな床に意外にも傾斜の激しい坂やったから怖いわ、滑らないように突き出した床板が足の裏に刺さって痛かったわ。逆もおなじになるんかな・・・」
訪ちゃんは以前の記憶でかなり痛かった思い出があったのだろうか、少し顔色は暗かった。
「土足厳禁だから靴下一枚で渡ったしね。登るほうが板のヘリに足を置けば良いから痛くないとは思うけど・・・」
先輩も上手く渡る方法がよくわかっていなさそうだった。
確かにいかにお城好きでも自宅の近辺にあるお城でない限り、遠征してくるしか無いのだから2度め、3度めでも何度も登城しているのと変わらないだろう。
とは言え、内部の構造を直接見たことの無い私には想像することしかできないのだが・・・
私は外側から恐る恐る内部を見ると一組のカップルがキャッキャしながら楽しそうに橋の内部の小窓を覗いたりして楽しそうにしていた。
もちろん靴は履いていなかった。
彼らは二の丸から西の丸に下ってきているのだが確かに降り方はぎこちない。
足が痛い痛くない以前に滑りそうだから慎重にならざるを得ないのだ。
しかも下から上を除くとあえて階段ではなく板床の橋にした理由を聞きたくなるような高い傾斜だった。
そして床板は滑らないように幅40~50センチの床板を洗濯板みたいにギザギザになるように先端を重ね合わせて作っていたのだ。
私は外から内部を見ただけである程度全てを察すると先輩達の顔を見て
「この橋どうして階段じゃないのでしょうか?」
と疑問を投げかけると先輩は
「分からないわ。そこまで気合いを入れて慎重になるほどではないのだけれど、板の先端は意外に尖っているから誤って先端に立つと足裏の坪が刺激されるわよ。」
そう言って私を脅してきた。
「前来た時はうちは誤って踏んでもうたから痛さで泣きそうになったわ。」
訪ちゃんは私の顔をニヤニヤ見ながら足の裏の痛みを強調してやっぱり私を脅してきた。
「しかも下り側やったから全体重を載せて踏んだから『ぎゃーーー!』ってなってもうたわ。」
そう言って大げさに大きな声で痛みを表現する。
「あなたが危ないという忠告も利かずに右に左に走り回りながら橋を降りていたからでしょう。」
先輩はそう言って大げさに痛みを表現する訪ちゃんの後頭部を平手でペシと軽く叩く。
訪ちゃんはテヘッと舌を出して悪戯っぽく笑った。
私はそんな訪ちゃんを小動物のように物凄く可愛いと思うのだった。
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