百二十五の城
砂の丸から
鶴の渓に向かうには砂の丸の更に下の階層に行かなければならないようで石段が設置されていた。
あゆみ先輩は石段の前で立ち止まると
「実は下の階層と私達にいるフロアって下の鶴の渓のフロアと違うフロアだと思ってしまうかもしれないけど、実際は同じなのよ。」
と先輩は訳の分からないことを言い出す。
「えっと・・・?」
私は理解が追いつかずに戸惑う、同じフロアと言うか階段を降りるわけだからそもそも階層は変わるわけなのだが、先輩は同じだという?
どう言う事?
「今から私達が降りる階段は同じ階層に繋がる階段なのよ。」
「それってうちらがおる階層が実は坂道で高くなってるって言うことか?」
勘の鋭い訪ちゃんが手をポンと叩いてそう言うと先輩はパチパチと小さく拍手をして
「そう言うことよ。すぐ下が鶴の渓がある西の丸になるのだけど、西の丸は同じフロアでも一番低い位置になっていて、鶴の渓がある西の丸庭園が置かれている曲輪と二の丸御殿を分断する切手門のところで一度階段を半層分登る以外は、大手門、御蔵の丸、南ノ丸、砂の丸と全て地続きで続いているの。だから大手門から入ると砂の丸までは層が徐々に高くなっていることが分からないまま和歌山城を歩くことになるの。」
階層が同じでも地層は坂によって盛り上がっていて分からないまま坂を登らされていたわけだ。
恐らく歩いていて全く気づかないレベルで地層が少しずつ盛り上がっているわけだからそれが防御側に有利に働く事は無いとは思うが面白い作りになっているなと思えた。
「ちなみにこの石段の私達が立つ位置には鶴の門と言う門が置かれていて石段の最上部を守っていたのよ。」
「二の丸には御殿があったから結構重要な門になるんですね。」
私が何気なく言うと先輩はニコッと頷いて
「そうね、和歌山城は山上にも使われてない本丸御殿があったから西の丸が抜かれてもまだ少しは余裕があったかもしれないけど切手門を抜かれて二の丸御殿が完全に制圧されてしまった時は不明門から脱出することを考えないといけないかもしれないわね。」
と私の答えに真面目に考えてくれた。
普通に考えて最終拠点である本丸の真下を完全に制圧されれば山上の本丸の防御がいかに手厚くても殆ど落城も同然だろう。
ましてや和歌山城は現在の城郭よりもまだ更にお城が広かったのだから、麓の御殿を取られれば事態は深刻だ。
私は少しだけでもお城の防御について考えて話が出来たことに自分の中で小さな成長を感じつつ満足気に思えるのだった。
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