百二十四の城

あゆみ先輩が私の家の位置がお城に近いことを聞いて珍しく興奮をしてうらやましがっている。


そんな先輩の姿を見てたずねちゃんはあきれた顔で


「そんなにうらやましがらんでもうちらほとんど毎日お城に入り浸ってるやん。」


と私の心の中を代弁してくれる。


ところが先輩は訪ちゃんに頭を振って


「移動の時間が勿体ないわ。私達の家もお城からそこまで遠いわけではないけど城下さんの家みたいに思い立ったら歩いてお城に行けるほどの距離じゃないわ。」


と先輩はとんでもなく無茶なことを言って私のことをうらやましがる。


そうは言っても先輩たちといる時はお城にいることが多いが、私が1人で過ごす時はお城には1人で行くことはないのだが・・・


どうも先輩はそう言う時でもお城にいることが多いらしい。


生粋のお城好きである先輩の考えはとてもお城初心者の私には分かるはずがないのだ。


「なるほどな・・・まあよう分からんけれども。」


さすがの訪ちゃんもそこまで時間を惜しむ気持ちがわからないのか適当な言葉で先輩をあしらうと先輩は少しほおふくらませて


「もう、なんでわからないのかしら。」


と不満そうにしていたが


「わからないのなら仕方ないわね。」


と直ぐに気を取り直すと砂の丸広場の方を指差して


「この砂の丸広場だけれど、江戸時代には勘定所かんじょうしょの建物が置かれていたのよ。」


そう言って説明をしだした。


きっとつるたにに行く前に説明をしておかないとと思ったのだろう。


先輩はきっとそう言うところは心のなかでスケジューリングを済ましているのだ。


「勘定所ですか、財政面の事を行っていたんですね。」


勘定と言えば読んで字の如しでお金のことに決まっている。


流石にこれくらいのことは文字で推測することが出来た。


「そうよ、砂の丸は二の丸御殿からも天守からも近い位置に置かれているからそう言う事を行うには都合が良かったのかもしれないわね。藩主が二の丸庭園で遊んでいてもすぐ駆けつけられる距離にあるから位置的にも都合が良かったのだと思うわ。」


内郭うちぐるわでは最後に作られた曲輪やからその点は都合よく作れたんやな。」


訪ちゃんはそう言って納得する。


二の丸の御殿との距離感が私にはわからないからなるほどぉと聞いているくらいしか出来ないのだが。


「勘定所は幕末には建物が増築されて御用部屋ごようべやと呼ばれるようになったわ。政治向きの御用は全て勘定所内で済まされるようになるの。本来政治向きの決裁は御殿内ごてんない藩主はんしゅの部屋で行われるのがほとんどだったけど、藩政の重要な案件は財政面のことだからと言う事で勘定所との連携を考えて恐らくそうするようになったのね。」


砂の丸広場に置かれた勘定所を更に大きくして政治向きの話を行うための建物にしたのだ。


それは政治のスピード化だ。


勘定所が裁定してほしいことを御殿に持っていって御殿で決済したら勘定所に持っていくよりも、御殿から藩主が来て政治向きの判断を一つの場所で行えば効率よく仕事をこなすことが出来る。


質素倹約しっそけんやくで保守的なイメージのある和歌山藩だけど、こう言う効率的なところは特に質素倹約の思想から生まれたのかもしれないわね。」


倹約するには効率化を図るのが一番だ。


お金をかけて建物を増設した結果、後世に効率よく節約する術を与える事が出来ると考えたのかもしれない。


和歌山藩の節約術はもしかしたらこう言うところに発揮されていたのかもしれない。

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