百二十三の城

味のある朱色をした追廻門おいまわりもんを楽しんだ私達は砂の丸を吹上御門ふきがみごもん方面に歩いてからつるたにを抜けて天守に向かおうと歩き出した。


朱の門を潜って再びお城に入ると目の前には綺麗に積まれた石垣が私達を向かえてくれる。


その石垣の裏側は広場が設けられていた。


「とにかく広い広場やな、これだけの土地が遊んだ状態なのはなんとなく勿体ない気がするわ。」


たずねちゃんは砂の丸に広がる広場を眺めて勿体なさそうな顔をする。


これだけの広場だから通常は運動場として使われているのだろうか?


奥の石垣までの距離も現在の遊歩道とかなり距離が離れていてかなり広い敷地が空地になっているのが分かる。


「普段はイベントとか集会に使われているらしいわよ。」


私達は何もイベントが行われていない日に来たけれど、通常はイベントが行われているのかもしれない。


「お城だったら植木市とかかな?」


「なんで植木市限定やねん。」


植木市っていうのはなんとなくの想像だ。


昔お父さんが連れて行ってくれたお城でも植木市をってたような気がしたのだ。


当然その頃はお城には全く興味がない。


だからうろ覚えの記憶だ。


「なんとなく?」


私が気の抜けた感じで返事をすると訪ちゃんは「ふーん」と返事をする。


「そう言えば、大阪城でもよく植木市とかやってるような気がするわ。森ノ宮の方の入り口で。」


「森ノ宮?」


私は大阪の地名はよく分かっていない。


だから地名で言われても方角はよくわからないのだ。


「森ノ宮は大阪城の南東の公園口やわ。何もない場所やで。あるのは駅とでっかい病院くらいやわ。ただなんか大阪城に行くには森ノ宮か谷町4丁目の駅をよく使うねんな。観光客とかライブに行く人は大阪城公園駅を使うけど、多分大阪に住んでる人は大阪城に行く時は森ノ宮方面の入り口から行くことが多いんちゃうかな。」


訪ちゃんはよく森ノ宮という駅を常用しているらしい。


大阪の南側に住んでいる人はそっちの入り口から大阪城に登城する人が多いのかもしれない。


「なるほどぉ、行ったこと無いや。私、天満橋てんまばしって言う駅の近くに住んでるから、そもそも大阪城の南側に行くことがないし・・・」


私が何気なくそう言うと訪ちゃんはびっくりしたような顔をする。


「天満橋って・・・さぐみん家ってもしかして結構なお金持ちなん・・・?」


どうやら訪ちゃんは住んでいる場所で私の家庭がお金持ちなのかもしれないと推測したようだった。


「そんな事無いよ。お父さんの会社が家賃扶助やちんふじょしてくれるから、もしかしたら結構良い場所に住めてるかもしれないけど、普通の家庭だよ。」


私は訪ちゃんに変な先入観を持たれるのは困るから大きな頭を振って否定をする。


でも確かに私達家族の住んでいる場所がすごくお高そうだと常々思うところがあったのは事実だ。


お父さん、一応会社の課長だからお給料は結構貰ってるのかな?


扶助とかもすごく手厚いのかも・・・


訪ちゃんが驚いたことで私もなんとなくお父さんって実は結構な資産持ちなのでは?と頭によぎる。


私と訪ちゃんがそんなしょうもないことを話しているとあゆみ先輩が突然


うらやましいわ!」


と珍しく声をあげる。


「えっ!?」


あまりの珍しさに私はどう答えてよいのか分からずオドオドとしてしまう。


「さすがのあゆみ姉もさぐみん一家の贅沢ぜいたくっぷりを羨ましく思うか・・・確かにうちも羨ましいとおもうわ。」


訪ちゃんはうんうんと頷くと先輩の肩に手を置いた。


訪ちゃんは先輩の気持ちを理解したと思いこんでいるのだ。


ところが先輩の考えは別のところにあったのだ。


「羨ましいわ!物凄くお城に近いじゃない!私だったら毎日お城に入り浸るわ!」


先輩の考え方はやっぱり浮世離れしているのだ。


しかしそうは言っても私生活のことでもお城基準の考え方とは・・・


先輩や訪ちゃんがどこに住んでいるかは分からないけどとにかく私よりはお城へは遠い場所に住んでいるのだろう。


先輩は本当にキラキラと素直な目をして羨ましそうな顔で私を見つめるが、先輩、あなたは私みたいに家が近くなくても毎日お城に入り浸っていますよ・・・

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