百二十二の城

私達は朱色の門を目の前に庶民達がごった返していた追廻門の雰囲気を楽しんでいた。


鬼門とは言えお城を誇りに持つ庶民たちにとって追廻門は赤門という呼び名で親しまれていたのだ。


「追廻門の名称ってあんまり良くは聞かんけど、この説明には馬術の練習場が場外にあったから追廻って呼ばれてたって書いてあるな。」


「昔は馬の訓練場に競馬場みたいな馬場があったの。追廻の周囲には厩舎や水場などが置かれていて本格的な訓練場だったのよ。」


「追廻って馬をムチで追い回したんですか?」


私は先輩に素っ頓狂な質問をするが先輩はそんな私の質問にも優しく答えてくれる。


「どうかしらね?流石に当時の訓練風景を見たことがないからなんとも言えないけど、馬場の中央には横に長い土手が設けられていて本当に競馬場やマラソンのトラックみたいに楕円の形をしていたようよ。そこで騎手が騎乗して馬を訓練するのだけれど、その訓練を追廻と言ったの。」


馬の大群をカウボーイみたいにムチで追ったのか、一頭ずつ訓練したのかは解らないようだ。


「追廻って読みだけやと追い回すって言う意味やから鞭を振るって多くの馬を追い回してたんちゃうかと思うけど、どうなんやろうな。」


訪ちゃんも名前の意味から推理する。


当然誰も遠い過去の風景を見たことがあるわけがないのだ。


その内容など分かるわけがない。


だけど読んで字の如しだったら馬を鞭で追い回すという言葉が正しいような気がする。


「そうかも知れないわね。」


先輩は訪ちゃんの言葉に素直にうなずく


「だけど鞭で馬を後ろから追い回したのだったらかなり迫力のある訓練だったかもしれないわね。たくさんの馬が一頭の馬に乗った騎手に追い回されるのよ。馬場も物凄く広かったのかもしれないわ。」


先輩の言うような雰囲気を私も脳内で思い浮かべる。


砂煙を巻き上げてバカラバカラと蹄を大地に響かせて走り回る馬の大群は想像と言えどものすごい迫力だった。


今はもう見る事は出来ないが、とんでもなく広い馬場だったのだろうか、それとも一頭ずつ練習するための訓練場だったのか、私には知る由もないが、庶民たちに慣れ親しんだ追廻門はお殿様が付けた名称ではなく、近くに追廻があって自然と呼ばれるようになった門だったのだ。


そう考えると人々が自然とそう呼ぶくらいに物凄く大きな馬場だったに違いない。


今はその迫力を味わいうことは不可能だが、お城は想像力を働かせて楽しむのが楽しいのだ。


追廻の訓練風景見てみたかったなぁ


今は閑静なビジネス街でも、私にはたくさんの馬が走り回る大きな馬場が目の前にあるような気がした。

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