百二十一の城
夏の太陽が朱色の
くすんだ朱色だけどいい感じに年月を重ねているのか風格のある風合いを出していた。
「赤に塗られた門って珍しいなあ・・・」
訪ちゃんがそう言うのだから赤く塗られた門はお城では珍しいのだ。
神社とかお寺さんならよくありそうだが・・・
「
「鬼門・・・だと赤く塗る方が良いんですか?」
現代だとあまりそう言うのは重視されなさそうだけど昔だと科学が現在よりも進んでいない分、霊的なものを重要視することが多かったのだろう。
「鬼門には例えば門を少し奥まった場所に置いて凹ませたり、盛り塩をして邪気を払ったり、鏡をおいたり対策をするようね。風水には私も詳しくないけど朱色に塗るのも邪気を薄める効果があったようよ。」
門を凹ませたり、盛り塩をしたり、鏡をおいたり赤く塗ったり、悪鬼を収めるには相応の努力がいるのだ。
私は盛り塩が置かれているのか気になって門の梁の部分をキョロキョロと見回すと梁の二箇所にきっちりと三角に固めて盛られたお塩が置かれていた。
「ちなみに鏡は鏡石を石垣に置くことで対応しているわ。」
鏡石って大阪城のおっきな石みたいなのかな・・・?
「うち石垣をずってみてたけどそれっぽい大きな石は無かったで。」
訪ちゃんも私と同じようにそのように解釈しているようだ。
「和歌山城の鏡石は大阪城の鏡石や名古屋城の清正石みたいにそこまで大きな石ではないわ。立派な打込み接ぎの石垣に埋もれてわかりにくくなっているのよ。鏡石はお城の権威を見せつけるために置かれることが多かったけど、本来は邪気を払うために置かれていたのよ。」
「じゃあ追廻門は本来持つ意味での鏡石として置かれたということなんですね。」
先輩に確認するように私が聞くと先輩は
「そう言われているわね。」
「昔の人は邪気を払うために一生懸命やったんやな。」
昔の人は霊的なものと身近に暮らしていたのだ。
邪気が払われるなら小さな努力を重ねて少しでも邪気を払うようにしてきた結果が追廻門の朱色だった。
「ちなみにだけど、追廻門は現存だけど、朱色は1985年頃までは色が落ちて朱色ではなかったの。」
「じゃあそれまでは風雨で色が落ちて木の地が出てしまっていたんですね。」
「そう、1985年に解体修理をした時に元々の色が朱色だということが発覚してそれ以来赤く塗るようになったのよ。」
現存する建物といえど経年劣化は避けられない。
追廻門の経年劣化は色に及んでいたのだ。
私達は入念なメンテナンスによって元の色を取り戻した追廻門を潜る。
目の前はガソリンスタンドや自動車販売の代理店などのビジネス街が広がっていて、さっきまでのお城の雰囲気から再び街に戻されたような気がした。
お城の門を潜って天守を眺めたり石垣を眺めたりしているとタイムスリップして現実から引き離されたような気がする。
お城って凄いな、そう思わされた瞬間だった。
先輩は朱色の門の前に置かれた説明用の看板から私達を呼び出すと「見て見て」と言って看板の絵を指差した。
「この紀伊国名所図会と言う色付きの絵には朱色の追廻門の絵が描かれていてその周辺を槍持、商人、旅人、庶民でごった返す様が描かれて当時の和歌山の繁栄が見て取れるわ。」
「ほんまやな、この絵、子供が遊んでたりとか
訪ちゃんが楽しそうに絵を観察する。
紀伊国名所図会の絵には和歌山城が街とともにあるのがありありと分かるように表現されていた。
いつの時代にもお城は街に溶け込んでいたのだ。
瞬間でも現代に引き戻されてガッカリしてしまったけど、お城はいつも街とともにあり、人とともにあるのだ。
紀伊国名所図会は私にそう語っているようだった。
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