百二十の城
無邪気な子供があゆみ先輩とホッコリとする出会いもあり私達は和歌山城登城は本当に素晴らしい出来事となった。
子供と手を振って別れた後、『私は吉宗博士よ』と胸を張って答えた先輩はかなり恥ずかしそうにして顔を真赤にする。
「あんな程度の触りの知識を話しただけで吉宗博士なんておこがましいにもほどがあるわね。」
先輩は照れ隠しにそう言った。
確かに話の内容は私の知識の無さをフォローしてくれるような内容の話だったが先輩はきっと私なんかよりも、訪ちゃんよりももっと詳しいに違いない。
それなのに否定する必要なんて無いのにと私は内心そう思う。
「吉宗博士、和歌山城を案内してや。」
「バカ、冗談に決まってるでしょ。さっさと行くわよ。」
先輩は訪ちゃんを置き去りにして追い廻り門に足早に向かっていく、訪ちゃんは
「あれは大分照れとるな。」
訪ちゃんは先輩が少し怒りながら足早に歩いていく背中を目で追いながらそう言った。
「そんな事言ってないで早くいかないと見失っちゃうよ。」
「大丈夫やって。照れてるだけやから。」
訪ちゃんはニッと笑うと先輩はそれに呼応するかのように私達に振り返って
「早く来ないと置いていくわよ。」
と私達を手招く、訪ちゃんの言う通り先輩は照れているだけだったのだ。
「はいはーい!」
訪ちゃんは手を上げて元気よく返事する。
私達は先輩を追いかけて追廻門の方向に向かっていた。
「追廻門から伸びてくるこの立派な打込み接ぎの石垣は砂の丸を分割するように門が置かれていたわ。和歌山城の砂の丸は南側の不明門から天守へ通じる石段が置かれていたわ。さっきの家族が降りてきた石段が天守への石段だったのよ。」
先輩は本丸のなだらかな石垣と打込み接ぎの立派な石垣を見比べる。
あの子供が降りてきた石段が天守へ通じる石段だったのだ。
「じゃあここに置かれた門が天守への裏道を守ってたんやな。」
「不明門も含めてね。」
訪ちゃんの問いかけに先輩は答える。
私はさっきの
「この砂の丸と追廻門は
「なるほど、西側は野面積みの石垣がむき出しで山だけが防御やったんやな。」
ここの曲輪が徳川時代にはなかったという事は訪ちゃんの言う通り、西側は山と海だけを頼りにして防御していたことになる。
豊臣時代までは東側だけを防御の頼りにしていたのだ。
「これは私の推測になるんだけど、豊臣時代は岡口門を大手門にしていたけど、これは明確に東側の防御を意識していたことになるわね。西側は海な事もあるけど淡路島に通じる阿波の国、現在の徳島県には豊臣氏の側近の
和歌山城はその時代の敵対勢力の位置に応じて少しずつ進化していったのだ。
「不明門と天守に通じる石段はもしも敵が攻撃を仕掛けてきた時に南に脱出するための通路として考えられていた。紀州藩は実は和歌山の南から東は三重県の松阪まで広大な地域を領有ていたから和歌山が西側の敵に攻撃されても次は南の新宮城、新宮城が陥落しても最後は堅牢な松阪城と防御を後ろに後ろにと引き下げることが出来たわ。この和歌山城は紀州徳川家の居城でもあり、重要な前線基地でもあったの。だけどその脱出口が西側の敵の格好の弱点となってしまっては話にならないわ。だから堅牢な砂の丸と不明門が築かれた。」
不明門の強そうな清正流の高石垣の櫓台は脱出口を守るための重要な防御だったのだ。
「今私達がいる砂の丸は紀州徳川家の重要な防御地点だったのよ。」
先輩はそう言って立派な打ち込み接ぎの石垣を見てそう言った。
今はただの石の壁だけど砂の丸の石垣は徳川家の重要な守りの要でもあったのだ。
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