百十五の城

南の丸から見あげる天守はまた格別なものがある。


二の丸と砂の丸の堀の隙間から望む天守も小天守や連立している櫓を眺めることが出来て格好良かったが、南の丸から望む天守は天守だけが主張していてここだけ見ると独立式の天守みたいでまた違う雰囲気をかもし出していた。


「動物園を楽しんだ後の天守もまたええもんやなあ。」


たずねちゃんは動物園を楽しんで、更に天守の姿を楽しめたことにとても満足そうにしている。


そしてそれは私達も同じだった。


夏の日差しに照らされている天守は白く輝いていた。


「和歌山城の天守は三層三階の小さな天守だけど、この南の丸から眺めるとなんだかそれよりも大きく見えるのよね。多分下層部分が木々に隠れて見えないからだと思うのだけど。」


「上層2階しか見えないですものね。」


下層階が見えない分、視覚効果でそう見えるのかもしれない。


そして私達の目の前には南の丸と不明門を仕切るための打ち込み接ぎの石垣が雰囲気を盛り上げて更に山上の天守を大きく見せてるのかもしれない。


「動物園を楽しんだ後に打込み接ぎの素晴らしい石垣と天守を眺めることが出来るなんて南の丸は贅沢な空間ね。」


先輩はとても楽しげにそう言った。


「ほんまやなあ、うさぎもペンギンも馬も可愛かったわ。アルパカはなんか暑いからか厩舎におったやと思うけど・・・お城も動物も楽しめてほんま贅沢やなあ。」


訪ちゃんはアルパカを見ることが出来なかったのをとても残念に思っていそうだ。


「そんなにアルパカが見たかったの?」


「見たかった。まあ見たこと無いわけやないけどな。せやけどやっぱりおるって聞いたら見たいわな。あのモコモコした姿が癖になるし・・・」


訪ちゃんはアルパカの姿を思い浮かべる。


夏の暑い盛りにモコモコしたまま毛刈りもせずにアルパカや羊を飼育するのだろうか・・・


だけどモコモコのアルパカを想像する訪ちゃんの夢を潰さないように何も言えずにいた。


「あーあ、モコモコのアルパカ見たかったなあ」


私の言葉が訪ちゃんの見たいという気持ちを呼び醒ましたのか大きなため息を付かせてしまったようだった。


「訪、そこの打ち込み接ぎの石垣、立派だと思わない?」


先輩は突然訪ちゃんに目の前の石垣の感想を聞く。


恐らく先輩はアルパカを見ることが出来なかった訪ちゃんの気を引くために聞いたのだ。


「確かに、立派な石垣やな。なんか緑っぽい石を綺麗に積んでるわ。」


訪ちゃんは先輩の言葉に誘導されてじっくりと眺める。


手にあごを乗せて腰をかがめて石垣を眺めるその姿はアルパカの事をすっかり忘れてしまったようだった。


「そうでしょ。この緑色の石は和泉砂岩いずみさがんって言って、和泉山脈から淡路島などによく見られる岩層から切り出した石なの。浅野幸長の時代には友ヶ島ともがしまの石切り場で加工して和歌山城に持ち込んでいたわ。」


訪ちゃんは友ヶ島と聞くとハッとして思い出したかのように


「友ヶ島ってあの伝説の人気ホラーゲームBELLーベルーの舞台になった無人島やろ?」


と嬉々としていた。


BELLーベルーは大人気ゲーム機初代DSで発売した伝説のホラーゲームのソフトで、あまりに恐怖を助長したTVCMはCMを見た視聴者を夜のゴールデンタイムのお食事中の家族を恐怖のどん底に陥れてしまい、あまりの苦情で放送禁止になったという伝説のゲームらしい。


BELLが鳴り響く夜は恐怖が訪れるというキャッチコピーはホラー業界に旋風を巻き起こしたという代物だ。


もちろん私達はまだ産まれて間もない時代の話だ。


産まれて間もない頃のゲームなのになぜ私達が知っているかと言うと人気の動画配信者がプレイ動画として配信しているからで、BELLの恐怖は配信動画によって永遠に続いているのだ。



一方でゲームに全く詳しくない先輩は訪ちゃんの喜びようにちょっとだけ戸惑っていた。


「そ・・・そうなの?ゲームの舞台かどうかはわからないけど、友ヶ島は大日本帝国陸軍が築いた砲台跡は観光地としてものすごく有名よ。映画の舞台などにも使われているわ。」


どうやら友ヶ島はゲームだけではなく映画の舞台などにも使われているようだ。


だけど訪ちゃんの中では今旬のBELLの舞台だということで大はしゃぎのようだった。


「凄いなあBELLやで、あのBELLの舞台で加工された石やねんで!凄いなあ!」


訪ちゃんのはしゃぎように先輩はどう答えていいかよくわからないようだった。


先輩は戸惑ってなんて言って良いのかよくわからないようだった。

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