百十四の城

私達は和歌山城の動物園で可愛らしい動物たちを愛でながらポヤポヤとやされていた。


「ペンギンもおるで!あはは、人形みたいに全く動いてないわ。」


たずねちゃんはペンギンが立っているゾーンのガラスに貼り付いてピクリとも動かないペンギンを観察する。


ペンギンは警戒心がないのか訪ちゃんがぺたりとガラスに貼り付いても恐れる様子もなく動こうとはしなかった。


和歌山城の動物園は無料公開の動物園だ、範囲もそれほど広いわけではないがアルパカやらウマやらヤギやらクマや猿までいる。


無料でこれだけの動物園なのだから素晴らしいものだ。


恐らく公園事業の一環である程度は予算が降りるのだろうがそれでも費用を賄うのは大変なはずだ。


「和歌山城動物園は大正8年に猿園舎と言う猿の飼育スペースが設けられてからおおよそ100年以上の歴史があるらしいわ。私は動物園に詳しくないから訪と同じでインターネットの受け売りでしか無いけどね。」


あゆみ先輩はさっき訪ちゃんを褒めてしまった皮肉も込めてそう言った。


「まだ言うてるんか、過ぎた話や。ところで無料で100年の歴史はかなり凄いな。動物たちも何頭も入れ替えてるやろうし、いこいの場としての努力の結果やな。施設も小さいながらも動物園としての体裁も整ってるし。守ろうと努力してる人らを尊敬するわ。」


訪ちゃんは意外にも苦労人の話を聞くと尊敬すると言う事が多いがそう言う気持ちを素直に口にできるところは本当に素晴らしいと思う。


訪ちゃんは冗談を口にすることが多いけど本当はすごく根が真面目なのだ。


だから自分の偏差値よりもワンランク上の学校に合格するという目標を建てると熱心に勉強して合格することが出来たのだろう。


私はこんな小さな出来事で大げさに考えてしまった。


私は素直に尊敬の念を口にする訪ちゃんに同調して


「素晴らしいことだと私も思います。」


と先輩に伝える。


「私も二人と同意見よ。動物たちも可愛いし、出来る限り長く続けて100年と言わず200年、300年と歴史を積み重ねてほしいわね。」


先輩の言葉に200年先や300年先の未来にも和歌山城動物園が存在すれば嬉しいなと思うのだ。





私達は和歌山城の小さな動物園を堪能した後、私達はそのまま不明門を目指して歩きだしていた。


私自身はもう少し動物たちを堪能しても良いかなあと心のなかで少し思わなくはなかったが、多分訪ちゃんが「あっ!馬や!」といえばウマ舎を飽きるまで眺めたり、「猿や!」といえば猿舎で猿を満喫すると言う感じだったので先輩も初めはそんな訪ちゃんをほっこりとまるで小学校低学年の妹を見守る姉のような気分で眺めていたのだが、ある程度時間が経つと予定が狂うことを恐れたのか先輩の方から「そろそろ動物園を出ましょう。」と私達をうながしたのだ。


訪ちゃんはその言葉を聞くとものすごく悲しい顔をしていたが、それでお城が見れなくなることを恐れて何も不満を言うこともなく先輩に従うのだった。


動物園を出て少し歩くと今度は和歌山城の天主を南から北に見上げる形になる。


下から見上げる和歌山城は夏の太陽の光を浴びて白く美しく輝いているような気にさせてくれた。

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