七十三の城
「そう言えばこの秀吉の邸の向かい側の少し上の段には家康の邸宅もあるの。」
私は
「徳川家康の館ですか?家康って信長とは違う勢力だったんですよね?そんな人の本拠地に家を作るんですか?」
一応私も安土城に行く前にサラリと信長の生涯を予習してきた事で浅い知識は頭の中に少しは入っていた。
確か家康は信長とは同盟者で別の勢力だったはず・・・
私がそうやって浅い知識を呼び起こしていると三國無双演舞5EXγの方が好きな
「そうや、信長と家康は同盟関係やってん。お互いにそんなに勢力が大きくない時からの同盟者やったけど、家康が信長とは逆方向の東海道の遠江と駿河に勢力を拡大している間に信長は立地を生かして美濃と伊勢に進出して気づいたら比べ物にならんぐらいの勢力差になってたから気づいたら
すると私をフォローしてくれた訪ちゃんを更に横から先輩が補足する。
「今私達の立っている秀吉の邸宅や前田利家の邸宅もあくまでも
「功績・・・ですか」
信長と家康は同盟関係で主従関係では無かったが殆ど主従関係だった。
始めは対等な同盟関係だったけど自然と信長の方が強くなってそうなったなら家康は悔しかっただろうなと思った。
「さあ、登りましょ。家康邸はすぐだから」
先輩はそう言って秀吉の邸宅跡から大手道に戻る。
私と訪ちゃんも先輩の後に続いた。
先輩が大手道を少し登ると簡単な門で区切られた区画を指差す
「ここが家康邸跡よ。」
門には「立入禁止」と言う木の板が掛けられていた。
「入れないみたいですね。」
「そうなの。」
先輩は残念そうに首を横に振る。
「ここは現在は
「その特別拝観はいつやってるんや?」
訪ちゃんは素朴な疑問をぶつける。
先輩は再び首を横に振って。
「不定期なの・・・同じお城に登城するなんてよっぽど家が近くないと無理だし、私も一回もその日には当たったことがないわ・・・」
とても悲しそうな顔で先輩は言った。
先輩ですら入ったことが無いのだから殆ど奇跡が重なるか、摠見寺の情報がすぐに手に入る近隣の住民でないと拝観することはできなさそうだ。
「残念ですね・・・」
「ほんまに・・・」
私達は顔を見合わせてがっかりした。
「でも想像してみて、仮にここに家康邸があったとして、ここで家康は寝泊まりをして安土城で饗応を受けていた。そう想像してみるとすごいと思わない。家康がここで寝泊まりしたことが切っ掛けで本能寺の変が起きるの。突発説、四国説、足利将軍説、朝廷説、秀吉黒幕説、家康暗殺説、様々な説があるけど切っ掛けは家康の安土饗応から始まったわ。想像するだけでドキドキしない?」
キラキラと光る夏の強い日差しの中でその日差しに負けないほどの眩しいほどの笑顔を作ってみせた。
「まあ、確かにな。で、あゆみ姉はどの説を推すんや?」
本能寺の変のことは私にはわからないけど、色んな人が色んな推理をして沢山の人がその謎に魅了されていることだけは前情報で知っていた。
訪ちゃんもその一人なのだ。
「さあ?真相は明智光秀本人の心の中よ。」
「うちは秀吉黒幕説を推すけどな。」
そう言って訪ちゃんは自分がどの説を推しているかを披露した。
一番世間一般が推しているであろうで説でもある。
だけど先輩は訪ちゃんの意見をすぐに否定した。
「それはないわ。」
先輩の強い否定に訪ちゃんは怒ると
「じゃああゆみ姉はどの説を推すんや!」
と突っかかる。
「そうねぇ、敢えて言えば突発説かな・・・」
「なんでや?理由のない反乱で混乱させたっていうのか?」
「理由は十分よ。」
先輩は訪ちゃんの反論に涼しい顔でそう応えた。
「光秀ほどの知恵の回る男が例え秀吉とは言え操られるとは私は思わないわ。それに現代人が現代人の感覚で推理しても無意味よ。戦国時代は
「ぐぬぬ・・・でも秀吉の中国大返しはどう説明するんや!」
「中国大返しについては必ずしも定説通りだったとは言い切れない。秀吉が供回りだけを連れて早馬で戻ってくるなら、あのスピードもありえなくないわ。事実秀吉は中川清秀、高山右近ら
先輩は訪ちゃんが強い口調で食って掛かるので冷静に対応すると訪ちゃんはあまりの悔しさに
「またでた・・・こう言う時に室町やら南北朝やらの事例を出して戦国武将だけが特別に優れていたわけじゃないみたいな言い方で論破してくるねん。」
とプイッと顔を
先輩は訪ちゃんが顔を背けて怒ったことを
「事例があったら普通話に出すわよ。それに歴史には定説が無いから面白いんじゃない。人それぞれの本能寺の変があるはずよ。私は光秀が天下を取りたかった。秀吉の操り人形になるような男じゃない。いくら他に納得の行く説明を並べられてもそう思うだけよ。だから訪も自説を曲げる必要性なんて無いわ。」
そう言って訪ちゃんの頭にポンと手を載せた。
「ふん、まあうちは絶対に秀吉が黒幕やって思っとくわ。」
訪ちゃんは
「そう、それでいいのよ。誰がどう思ったって真相は本人にしかわからないんだから。」
先輩はそう言って微笑んだ。
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