七十二の城

私と訪ちゃんの仲の良さを秀吉と利家の関係に先輩は例えてくれた。


私はそれが嬉しくて訪ちゃんと二人で喜びあった。


戦国時代の骨肉相食む時代の中を生涯保つような秀吉と利家みたいな友情ではないかも知れないけど、この友情は大切にしたいと思わせてくれる。


秀吉と利家の関係は私達をそのように思わせてくれた。


「私、訪ちゃんと虎口先輩に出会って仲良くなれたこと一生大切にします。」


訪ちゃんはてれたように頭を軽く掻く、一方先輩は自分の名を含んだ事に一瞬驚いてからとても嬉しそうに無邪気な笑顔を見せる。


「あら、私も二人の友情に含んでくれるの。とても嬉しいわ。」


「もちろんです!」


私は何故かすごく力の籠もった声で肯定する。


「じゃあ城下さん。お願いがあるの。」


「はい、どうしました?」


先輩がお願いがあるということで敢えてこのタイミングで言うからにはなにか言いにくいことなのだろうかと不思議に思った。


先輩は少し恥ずかしそうにしながら


「次からでいいから私も名前で読んでね。」


とはにかんだ。


まさか大切な先輩で師匠の虎口先輩を下の名前で呼べというのだ。


年長の人だし流石にそれは失礼ではないだろうか私は今まで考えたことのなかった願いに驚くと同時に気恥ずかしさで顔が真っ赤になる。


「せせせせせ・・・先輩、ささ・・・流石にそれは失礼ではないでしょうか・・・」


私がそう言うと先輩は人差し指を顎に当てて


「うーん、そうかしら?でも、私の名字って怖いじゃない。決して自分の名字が嫌いって言うわけではないけど虎口ってお城で言うとすごい攻撃的な区画だし、時々威圧的じゃないかと思うことがあるのよ。城下さんが私の事を下の名前で読んでくれるとくすぐったいところが初めはあるかも知れないけど、親しみをもっと持ってくれそうで私も嬉しいわ。」


先輩がそう言ってくれるものの私は戸惑いがあって中々返事できずにいた。


すると横から訪ちゃんが


「あゆみ姉はウチラは親戚同士やし以前からの知り合いやから良いけど、さぐみん一人が先生も含む四人の中で阻害感を感じていないか心配しててん、だからあゆみ姉の我儘やねんけどもしもさぐみんに抵抗がなかったらこの願い聞いてやってくれんかな。」


訪ちゃんはそう言って普段から聞いているのであろう先輩の思いを私に話すことで先輩をフォローする。


私はそこまで先輩が思っていてくれたことに対して無下にするわけにはいかないが流石に呼び捨てにすることはできないと思って。


「下の名前を呼び捨てにすることは流石にできないですが名字ではなく下の名前で次からは声をかけさせていただきます。」


私の言葉に先輩の顔はパッと明るくなると私の手を取るとグッと私に顔を近づけて


「ほんとに!ありがとう!」


と喜んでくれた。


先輩の顔が近づいたことで先輩の綺麗な髪からとても良い匂いのシャンプーの香りが私の鼻をくすぐる。


『はぅ・・・先輩いいにおいですぅ・・・』


私は先輩の名前のことよりもそっちのことで恥ずかしく感じてより顔が真っ赤になって体中の血液が顔に集まっているような気になった。


私は若干クラクラしながら


「どういたしましてぇ・・・」


と先輩の言葉に何とか反応した。


「しかしこれやと秀吉と利家よりも劉備、関羽、張飛の桃園の誓いやな。」


訪ちゃんは三国志に例えてそう言った。


なぜ歴史に疎い私が三国志のことを知っているかと言うと大人気ゲーム機ドリームステーション4略してDS4の長寿アクションゲーム、三國無双演舞6EXα~我ら生まれる時は違えど死す時は同じ日、同じ時を願わん~をプレイしたことがあるからだ。


あのゲームはどちらかと言うと女子向けのゲームとして作られていて、劉備、関羽、張飛の三人の熱い友情、その二人の友情に無理矢理割って入ろうとする趙雲、孔明、龐統、法正、黄忠達サブキャラのハラハラ・ドキドキを完全に描ききった大作ドラマティック・アクションゲームとして今も燦然とその界隈に輝きを放っていた。


特に黄忠の老獪なテクニックで劉備と関羽の心を翻弄して手玉に取るシーンはその界隈ではゲーム史上最高の名シーンとして今も語り継がれているくらいだ。


私も当時は黄忠のオヤジテクに胸を締め付けられて関羽の熱い漢心に同情し涙した。


「その三人って、三國無双演舞6EXα~我ら生まれる時は違えど死す時は同じ日、同じ時を願わん~だよね。」


私が桃園の誓いと言えばと思い当然のように反応すると訪ちゃんはちょっとしかめっ面になって。


「あ~、あのゲームな。うちあのゲームは苦手やねん。ゲームのシステム自体は悪くないんやけどストーリーがちょっとアレすぎて・・・その界隈では大人気やけどなあ。うちはアクションと育成重視やった三國無双演舞5EXγ~孔明、五丈原に落つ~のほうが好きやったかな。スキルアビリティシステムが神すぎたわ。」


三國無双演舞5EXγは男の子の心を魅了したストーリーよりもアクションと育成、覚えたスキルを3つまで好きなキャラに装着することでよりアクションと攻撃範囲を強化することが出来るスキルアビリティシステムを搭載したアクションゲーム界では屈指の神ゲーとして扱われる人気作品だ。


それ故にストーリーがスカスカで魏延が孔明の祈祷の蝋燭を倒した際の魏延サーセン的な対応が未だにネタ扱いにされているゲームでもある。


その界隈では6の最大のライバルとして名高く某有名掲示板で神ゲーとして度々名前が上がるとその界隈の人達が『老害』『懐古厨』と同一IDで煽るのが恒例となっていた。


「・・・・・・あー、そうなんだ・・・」


私はロボットのような棒読みで返すと自然と訪ちゃんから目を逸していた・・・

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