七十一の城

秀吉の邸宅で話をしているとたずねちゃんがすっかり油断しているのを感じて悪戯心いたずらごころが働いてさっきに仕返しをしてやろうと言う気持ちがムクムクと起こってきた。


いつもやられっぱなしだからたまにはやり返してやろうという気持ちである。


訪ちゃんがすっかりリラックスして虎口こぐち先輩と話をしている所を狙って。


私は少しずつ近づいて後ろから


「訪ちゃん、肩に蜂が!」


と訪ちゃんがすっかり警戒心が無い所を少し声を張り上げて脅かすように言ってやった。


すると訪ちゃんは


「蜂!スズメバチちゃうやろな!」


と体を強張こわばらせて体を極力動かさないように身構えた。


蜂はこちらが慌てふためいて攻撃的な態度を見せると余計に興奮して攻撃してくるのだ。


私は訪ちゃんが体を強張らせる姿を見せてクスクスと笑う


流石に虎口先輩は私が訪ちゃんの背中に静かに近づいた事を知っていたのか蜂の羽音が聞こえなかったことを不思議に思ったのか冷静だった。


「訪、あなたスズメバチみたいな大きな蜂が肩に止まるくらいに近づいてきたのに羽音に気づかないの?」


そう言って私と同じようにクスクスと笑って。


「へっ?」


訪ちゃんは先輩の言葉にキョトンとすると冷静に耳を澄ませて周囲を見回した。


「あはは、訪、あなた仕返しされたのよ。」


先輩は珍しく声を出して笑う。


訪ちゃんはやられたって言う顔をした。


「まさか逆にやられてしまうとはな・・・」


訪ちゃんはなんだか感慨深かんがいぶかい顔をした。


「流石さぐみんやわ・・・」


そう言って私にそっと近づいてニコッと笑うと肩手をおいた。


私はなんだか訪ちゃんに認めてもらえたような気がして誇らしい気がして胸を張ってむふーっと鼻息を強くした。


訪ちゃんが私の目を見て


「今回は負けたわ。」


と言うと肩から手を離す。


するとその瞬間私の右肩からぴょんと何かが跳ねた気がした。


「うわぁ!」


私は突然のことに驚いて肩をすくめて身をすくめると訪ちゃんが


「あははは!まだまだやなあ!」


と声を出して笑った。


訪ちゃんは私の気づかない間に弾力のある雑草を手の中でクシャクシャに丸めて私の肩に置いてバネみたいにピョンと跳ねさせたのだ。


私は驚いてぺたんと尻餅しりもちをついてしまった。


訪ちゃんはそれを見て驚いて急いで私の手を取って私を引っ張って立たせてくれた。


虎口先輩はそんなわたしたちの姿を見て笑顔になると


「あなた達は秀吉と利家みたいにもう親友なのね。」


そう言って私達のはしゃぐ姿を豊臣秀吉と利家と言う人になぞらえる。


「秀吉と利家か、光栄な例えやな。ちなみに秀吉はうちやろ?」


そう言って訪ちゃんは胸を張ると


「お調子者っぽい雰囲気は秀吉かもね。」


「お調子者って・・・」



訪ちゃんは先輩の答えにちょっと不満げだ。


流石に日本を代表する英雄の秀吉は私でも分かるが利家と言う人は誰だか分からなかった。


「利家って?」


そう言って不思議そうにしていると


「前田利家は秀吉の親友だった武将よ。ここは秀吉の邸宅だからそう例えてみたの。ちなみに利家の邸宅も安土城にはあるのよ。」


そう言って教えてくれた。


「秀吉の邸宅の向かい側の少し下の段やったっけ」


訪ちゃんは利家という人の邸宅跡を知っているみたいで流石に一度来たことがあるだけあって前情報があるみたいだ。


「秀吉とその利家という人とは私達みたいな親友だったという事ですが秀吉と親友ってなんだかすごいですね。」


「なにせ秀吉が若い時からの友人やから秀吉の信用も物凄く厚かったんや。うちらみたいに悪戯したりはしゃいだり、間違えたこととしたら忠告したりほんまの親友やったみたいやで。」


戦国時代は骨肉相食こつにくあいはむような関係が当たり前だと思っていたのでそう言った関係が戦国時代にもあったことを知って私は少し感激していた。


「秀吉と利家は夫婦ぐるみで仲が良くって子が生まれなくて悩んでいた秀吉夫妻に利家夫妻が自分達のことのように気に病んで豪と言う生まれて2歳の娘を養女に出して秀吉夫妻の慰めにするの。秀吉夫妻の方も利家夫妻の思いに感激して本当の娘以上に寵愛するのよ。」


「養女にってそんなに深い関係だったんですか・・・」


まさか自分の娘を可哀想だからと言って養女に出すなんて簡単にできるわけがない。


それほどまでに二人の関係が親密だったことがそれだけで伺えた。


「現代の平和な時代でも本当の親友を作るなんてとても難しいわ。それが骨肉相食む争いを繰り返した戦国時代の中で現代の親友を越える関係を築くことが出来るなんて本当に素晴らしいことよね。」


先輩はそう言って利家邸と思しき方向を見て感慨深そうにしていた。



「親友って大事やな。」


訪ちゃんは私を見るとポツリとつぶやいた。


「そうだね。」


私も訪ちゃんを見てうなずいた。

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