七十の城
安土城の大手道は天上に続く道のように長く高い石段だ。
私達はその長く辛い道を今登城しようとしていた。
私達は受付で登城料を払う。
今回は学校からの旅費ではなく私達自身が旅費を出して計画した登城だ。
毎回
「天護先生も来ればよかったのにね。」
私が残念そうに言うと訪ちゃんは首を横に振った。
「来るわけ無いやん。先生は何よりもしんどい事が大嫌いやねん。安土城は安土の駅から結構歩かなあかんし、石段の一段一段が結構高いから登城するのも結構辛いし。明石城みたいな平山城と比べるとやっぱり古風な城やで。先生は甘いものをたっぷり取らな生きていかれへん生物やから、こんな甘いものもなんにもなくてそのうえしんどい城に登城するわけ無いやん。」
確かに先生は自費とは言え部活動を監督しないわけにはいかないとか言いながら隣の
どうやら先生は近江八幡の観光地でカフェ巡りをするために降りたみたいだった。
自費だし途中まで来てくれただけでもありがたいと思うべきなのかも知れない。
先生の話を訪ちゃんとしていると突然先輩は
「そう言えば近江八幡にもお城があるのよ。」
と思い出したかのように言った。
「えっ、そうなんですか?」
私が意外だなあと思っていると訪ちゃんが
「
と腕を組んでそう言った。
「その通りよ。安土城はまだ石垣が残っているけど
先輩は首を横に振って勿体ながる。
「豊臣秀次ってどんな人物なんですか?」
私が秀次さんの事を質問すると訪ちゃんはハッとして急にあらぬ方向に指を指した。
「秀吉の邸宅跡や!」
訪ちゃんが指した指の先は大手道途中にある少し広い広場だった。
「秀吉の家って安土にあったんだ・・・」
「秀吉の実家は尾張、現在の愛知県にあったの。秀吉の若い時に仕官を志して
秀吉だけではないと思うけど今も昔も出張が多いのだな。
「どうして安土に?」
「恐らく信長が拠点を安土に移した時に新たに邸宅を構えさせたの。」
信長は新しいお城に家臣を住まわせるようにしたのだ。
私は不思議に思って
「どうしてそんな事を?」
と質問をすると先輩は簡単に
「秀吉の拠点は長浜だけど政治向きの重要な会議ややり取りは信長のいる場所で行われるわ。安土に本拠とは別の邸宅を構えるのは自然だと思うわ。」
と教えてくれた。
安土城は草深い山の中の城だ。秀吉の邸宅跡も綺麗な陽の光を受けて野面積みの石垣と相まって古城の雰囲気を味あわせてくれた。
「そっか、ここに秀吉も住んでいたんだね。」
「それほど長い期間ではないけどな。安土城は完成してから6年で焼失してしまったし、秀吉は長浜や姫路が本拠地やし、その6年の間を殆ど外征してたからな。」
6年間殆ど出張だけで過ごした。
うちも似たようなものなのかな?
でも家に帰れないって言うのは結構異常だよね。
それくらい織田氏の武将は忙しかったんだ。
「武将ってとても忙しいんだね。」
私は秀吉が毎日のように出張の準備をしていることを頭に浮かべるとなんだか親しみがあるように感じた。
「なんせ日本中を切り従える忙しい仕事やからな。」
私は訪ちゃんの言葉に同意して頷いた。
「秀吉はその忙しい時期を持ち前の優れた能力で沢山の難題を解決して行って名声を高めていったのよ。短いけど後の秀吉を形作る重要な期間だったわ。」
たった6年しか存在を許されなかったお城と邸宅。
だけど重要なお城だったのだ。
私は短い中にある重要な歴史を秀吉の邸宅前で噛み締めた。
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