六十四の城

美しいドーム状スクリーンに投影機とうえいきが美しい星達を映し出す。


私達は投影機が映し出す星に包まれてとても幸せで甘美な世界を味わっていたが、その時間はわずかに45分だけしか体感できない。


私達の幸せな時間はあとわずかで終わろうとしていた。


「嫌やなぁ・・・終わってほしくないわ・・・」


たずねちゃんは小さくそうつぶやいた。


その呟きを聞くと私も凄く悲しくなって、なんだかちょっとこみ上げるものがあった。


私はそんな自分を励ます意味も込めて


「また、来ようよ・・・」


って小さく伝えると訪ちゃんは小さく頷いた。


始まりがあれば終わりがあるように明けない夜はない


スクリーンは少しずつ明るくなってプラネタリウムホールは夜ではなくなってしまった。


私達を楽しませてくれた投影機は堂々と中央で鎮座ちんざしている。


投影が終わると私達4人は静かに立ち上がってホールを出た。


「みんな付き合ってくれてありがとうね。」


ホールを出ると虎口こぐち先輩がおもむろに感謝を口にしてくれた。


「そんな事ありません。私プラネタリウムを見れると知って物凄く嬉しかったんです。」


私は感謝してくれた先輩に驚いて慌ててそう言っていた。


「違うのよ。このプラネタリウム、計画を立てたのはあゆみなのよ。せっかく明石に行くならみんなで見たいって言って。特に訪は見たことが無いから見せてやりたいんだって。まあ明石までの旅費は高くもないしプラネタリウムを見るなら学問に関わることだから旅費と一緒に校長にお願いしたのよ。その事を付き合わせたと思っているみたい。」


天護あまもり先生は感謝する先輩の頭をポンポンと叩いてそう言った。


すると訪ちゃんの顔が太陽みたいに明るくなって


「あゆみねー!ありがとう!」


と感激のあまりに叫んで本当に飛ぶように先輩の腕にしがみついた。


「もう!暑いわよ・・・でも喜んでくれて嬉しいけど、校長を説得してくれたのは先生なんだから先生に感謝しなさいよ。」


先輩は腕にしがみついた訪ちゃんの頭をでて先生に感謝するように促した。


「せんせー!ありがとう!」


訪ちゃんは先輩の言葉に従ってペコリと頭を下げた。


「先生ありがとうございます。」


訪ちゃんに従って私も頭を下げた。


「あんた達のためになるなら良いのよ。」


先生は照れ笑いを浮かべながらそう言った。


私はその言葉をきっと本心だと思った。


先生はなんだかんだ言いながら私達のことを気遣ってくれているのだ。


先生は授業中の先生とは態度が大きく違うけど心根はやっぱり変わっていない。


私はそう確信していた。


「じゃあもう今日はそろそろ撤収するわよ。暑い中歩いたからお風呂に入って汗を流してゆっくり寝て明日登校すること。」


先生は私達に教育者らしい言葉で締めてくれた。


私達3人は声を揃えて


「はい!」


と応えていた。





明石から電車に乗って学校の正門前についたのはもう17時を過ぎていた。


私達は正門で少しの間、明石城の事やプラネタリウムのことを一頻りしゃべると先生に促されて名残なごりしいながらも解散することになった。


そう言えば白浜しらはまにパンダを見に行った新婚気取りの夫婦はもう帰っているのだろうか・・・


帰っていたらパンダや動物園の動物の話を山ほど聞かせられるに違いない。


流石にこんなにも濃厚な一日を過ごしたのだから母のデート自慢を聞かされて一日を終えるのは絶対に嫌な気持ちだった。


帰ってませんように・・・


私は心の中で祈りながらマンションに帰り着くと、部屋の電気が付いていなかったのでホッとした。


私は誰もいない家に入ると冷蔵庫の麦茶を飲んで疲れた体をやすために部屋のベッドで横になった。


「シャワー・・・浴びないとな・・・」


私は心の隅でそう思ったが、疲れた体は私の考えを無視するかのように睡眠にみちびこうとしていた。


私は自然に瞼が落ちると気づいたら夢の世界にいた。





私が目が覚めたのは家の鍵がカチャカチャと音を立てて扉が開かれた音がしたからだ。


扉が開かれて玄関に人が侵入する音がする。


私が疲れた体で目覚まし時計を見ると時間は21時になろうとしていた。


『白浜って遠いんだな・・・』


私は寝ぼけ眼で夫婦の帰宅時間を知ると、うつらうつらとする脳でぼんやりと考えた・・・


私はぼんやりとする脳でゆっくりと起き上がると喉が乾いて水分を補給したくなる。


私は台所にある冷蔵庫に千鳥足で足を運んでいた。


父はお風呂でシャワーを浴びているようで台所へと続く廊下はちょっと湿気を帯びた空気だった。


そして奥の台所のすりガラスの扉には人影が写り込んでいた。


「おかあさんか・・・めんどくさそう・・・」


私はそう言いつつも水分がほしいと思う気持ちは止められなくって扉を開けていた。


扉を開ける音に気づいたお母さんは私に


「さぐちゃんただいまぁ!」


と元気な声でただいまと挨拶あいさつをしてくれた。


私はうつらうつらと眠たい声で


「おかえりぃ」


と力なく返す。


フラフラと幽霊のように冷蔵庫に近づいて麦茶を取り出しコップに入れて飲み干すと

麦茶の清涼感で私の脳は徐々に覚醒かくせいされ、ぼんやりとした頭がはっきりとしてくる。


同時に私の視界は一気に広がった。


私が台所の異様な雰囲気に気づいたのは殆どそれと同時だった。


目の前には母の顔をしたパンダが立っていた・・・


「ギャーーーーー!!」


私は母の顔をした謎の動物を視認すると声を上げると同時に気絶した・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る