六十三の城

天護あまもり先生が計画して連れてきてくれたプラネタリウム。


後8分で放映されると聞いて意外にも一番興味の無さそうなたずねちゃんが


「はよ行かな席に座れんくなるで!四人で並んで座れんかもしれん!急がな!」


と言って大慌おおあわてで私達の背中を押す。


「分かったわよ。背中を押すな!」


先生はそう言って迷惑そうに訪ちゃんの手を振り払って私達を館内に案内してくれた。


天文科学館の2階にプラネタリウムのホールがあって、入り口には天文に関する展示物が置かれていた。


虎口こぐち先輩はその展示物に興味を少し持っていたがあまり時間もないのでちょっと後ろ髪を引かれながらホールに足を運んだ。


ホールの入り口の扉を潜ると巨大なプラネタリウム投影機とうえいきが円形のホールの中心に鎮座していた。


訪ちゃんはそれを見て


「あのかっこええ機械から投影されるんかなあ・・・」


と物凄く嬉しそうだった。


投影機の周りには60周年おめでとうと書かれた装飾が施されていた。


凄く古い機械らしかった。


「訪ちゃんもしかしてプラネタリウムは初めて?」


私がそう聞くと訪ちゃんは目をキラキラと輝かせながらカクカクと首を縦に振った。


私もそう何度もプラネタリウムに足を運んだわけじゃないけど東京で既にプラネタリウムは経験している。


お城のことはともかくプラネタリウムは先輩なのがなんか嬉しくて訪ちゃんよりも余裕を見せれると思って


「そっか、じゃあ凄く楽しみだよね。もうすぐ始まるから座ろっか・・・」


私はプラネタリウムの先輩として近くの空いた席に座る。


「どこ座ってもええん?」


訪ちゃんが私に聞くと私は


「うん、そうだよ。」


余裕を見せてみた。


私が堂々と座るものだから訪ちゃんも折りたたまれた椅子の座席部分をおろそうとしたが


「ちょっと、二人共、こっちに席をとってあるから来て。」


先生が席に座ろうとする訪ちゃんを視認すると手を挙げて私達を呼んだ。


私は余裕を見せようとして訪ちゃんを前にして恥をかいてしまった・・・


私達が先生の用意してくれた席に座ると丁度放映の5分前くらいになっていた。


虎口先輩が前方の大きな投影機を見て


「あれはドイツの天体望遠鏡てんたいぼうえんきょうや一眼レフカメラのレンズを作っている光学機器メーカーのカールツァイスの作った日本一古いプラネタリウム投影機なの。」


と小さな声で教えてくれた。


「そうなんや、凄い機械でプラネタリウムが見れるんやな。楽しみや・・・」


訪ちゃんは子犬のような顔でワクワクと投影機を見つめていた。


少しすると柔らかい声のナレーションが始まり、ホールは真っ暗になる。


私達は椅子を倒して星が少しずつ映し出されるドーム状の天上を見つめた。


映像とは言えキラキラと映し出される美しい星たち、夏の大三角形やベガやアルタイルなどの大きな星たちが私達の目を楽しませてくれた。


ナレーションが星座の説明を始じめると訪ちゃんは物凄く小さな声で


「あれが大熊座、隣が子熊座・・・あれはオリオン座・・・」


私達四人の中で最も楽しそうにプラネタリウムを満喫していた。


多くの星の瞬き、多くの星座に伝説があって歴史がある。


私達は一瞬にしてプラネタリウムの世界に引き込まれ没頭させた。


そして子午線しごせんも天文学に関わるものだった。


子午線は十二支の北に位置すると南に位置するうまを繋ぐ縦の線のことだ。


そして日本標準子午線はグリニッジを北から南に走るグリニッジ標準子午線から数えて東経135度の位置にある子午線が日本標準子午線だった。


「そっか・・・それで明石にはプラネタリウムがあるんだね・・・」


私は感慨深くなって周りに聞き取られないくらいの声の大きさでつぶやくと横に座る訪ちゃんにだけは聞こえていたみたいで身を輝かせながら小さく首を縦に振ってくれた。


私達は明石に来てお城も星も学び、楽しんだ。


本当に贅沢ぜいたくで有意義だ・・・


こんな経験をさせてくれるなんて・・・


本当に私はこの三人に出会えてよかった・・・


大阪に来てこの三人に会えなかったら私、今もきっと一人だった。


学校に行って、クラスメートと他愛もない会話をして、勉強をして、家に帰る。


でも私は今、お城を楽しんで星の事を学んでいる。


もしも神様がいるなら本当に私にこんな貴重な友達を与えてくれてありがとうございます。


私はくらいプラネタリウムの中で誰にも見えないことを良いことに一筋だけ涙を流していた・・・

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