六十の城

私達が今いる天守台や、それを守る人々がいる。


私は虎口こぐち先輩たちにお城のことを教わったことでより深く、その事を意識することが出来た。


何気なく歩いて何気なく楽しんでいるその場所も全てはそれを保持しようとする人達がいる。


そう言う人達を少しだけ意識することでその場所の見方が変わるんじゃないかな?


私はそう意識させられた。


「天守台が初めて大阪城を見たときよりも美しく見えます・・・」


私がふとそうつぶやくと先輩も


「そうねぇ。」


とニコニコしていた。


「なあなあ、さぐみん、天守台に意識が行ってて全然気づいてないと思うけど」


たずねちゃんは私の肩を叩いてよびかける。


そして私が振り向くと指を指した。


「ほら、本丸から来ると天守台に隠れて見えへんけど坤櫓がここからやと物凄く大きく見えるねん。」


そう言って訪ちゃんが指した場所を見ると確かに本丸で見たときよりも大きく見える坤櫓ひつじさるやぐらが立派に鎮座していた。


「えっ、なにこれ?凄く大きい・・・」


あまりの大きさの違いに私は絶句してしまう。


「視覚効果かしらね。いつもここから見る坤櫓は物凄く大きく見えるわ。巽櫓たつみやぐらと違って比較的近い場所から石垣と一緒に見れるからかも知れないわ。巽櫓は高低差のある場所から見上げるか、間に二の丸を挟んで見るかしか出来ないから同じ石垣と一緒に見るにしても近くから見れる分坤櫓が大きく見えるわね。」


天護あまもり先生はそう言って見慣れぬパッケージのフリスケを3つ口にほおりこんだ。


「先生、それフリスケの新作のチョコミント味ですよね。」


先輩がフリスケの新パッケージに気づくと先生はパッケージをチャッと音を鳴らしながら取り出して私達に見えるように見せてくれた。


ミントアイスの色をしたパッケージには茶色いチョコの色をしたフリスケが描かれている。


「なんか毒々しい色やな・・・甘く無さそうや・・・」


訪ちゃんがちょっと引き気味に言うと先生は腰に手を当てて少し高飛車に


「そうよ。甘くないわ、味はミント味よ!」


なんだか自慢気に言った。


「じゃあミントでええんちゃうんか・・・」


「あんたの言うとおりよ、失敗したわ。だから早くなくすために多めに口に入れているのよ。桃味はもう5パック用意しているわ。」


買った以上は全部食べる。


先生の心意気は良いとして、それをドヤ顔で言える先生がなんか凄いなって思えた。


「その鞄、フリスケしか入ってへんのちゃうか・・・」


訪ちゃんが先生が肩から下げている小さなかばんを見てそう言うと先生は


「んなことどうでもいいのよ。それよりもこの坤櫓が大きく見せているのは敵に威圧的に見せるための効果も想定していたと思うわ。」


そう言って再び先生は坤櫓を見上げた。


確かに目の前に遠くから見たら小さな櫓なのに近くから見るとこんなにも大きく見えたら敵も恐怖するに違いない。


「まあ、ここで戦いが在ったわけじゃないからあくまでも推測だけどね。」


先生はそう言って自重する。


そして先輩に説明するように目で促した。


「この稲荷曲輪いなりぐるわの役割は隠し曲輪の役割なの。稲荷曲輪に直接侵入するには大手門から城郭の中段の細い通路をわざわざ本丸からの鉄砲の雨を潜り抜けるか、迷路のように複雑な大名屋敷を通って侵入する必要があるわ。苦労して稲荷曲輪に侵入しようとすると現れる大きな櫓は恐怖心を与えるのに十分でしょうね。」


先輩の説明を聞いて先生はウンウンとうなずく。


「だけどその視覚効果は戦争には使われなくて、私達のようなお城を楽しむ人達に向けて効果を発揮しているわ。やっぱり平和だから天守はいらなかったのよね。」


そう言って先輩は優しい目をしていた。


私と訪ちゃんはその言葉に頷いた。


先輩の話を終わるのを待っていた先生が口を開くと


「あれ、あゆみが断定するなんて珍しいわね。明石城に天守が無いのは諸説在ってね・・・」


そう言って人差し指を立てて説明しようとすると訪ちゃんが


「それはもう聞いた。色々あって結局これが綺麗きれいでええなあって話になってん。」


そう言って先生の話の腰を折った。


先生は訪ちゃんの言葉に少しねたのか


「あっそ、まあなんでもええわ・・・」


とそっぽ向く。


「あー!もう!面倒くさいなあ・・・」


そっぽ向いてすねた先生を見て訪ちゃんはそう言って頭をむしった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る