五十二の城

小笠原おがさわらさんと伊東さんの復活劇を聞いてお家再興に播磨はりまは縁が深い土地だとしれた。


両家とも偉いなあ。


歴史に詳しくない私だからこそ余計にそう思えるのかもしれない。


「小笠原家も伊東家も一度滅亡して再興したドラマティックなお家だけど、でももっと凄いドラマを持つ家があるのよ。」


もっと凄いドラマ・・・


この2つのお家よりももっと凄いドラマ性を持つ家があるんだ?


「へえ、それはうちも知らんな。」


「そうかしら、たずねもきっと知っているわよ。赤松家よ。」


「赤松、浦上、小寺、別所、有馬に散々領地を侵食された印象しかないけどなあ・・・」


訪ちゃんは赤松さんのことをあまり知ら無さそうだった。


「赤松家は古くは元弘の変で大活躍した赤松円心えんしんを祖とするお家だったの。赤松円心は知ってるかしら?」


私は虎口こぐち先輩の目がなんだかキラキラと輝いているような気がした。


訪ちゃんは赤松円心の名前を聞くと少し緊張感を持った面持ちになって身構える。


二人の反応の違いに私は内心戸惑ったが先輩がとにかく楽しそうに話をしていることに何よりだなあと思う。


ちなみに私は武田信玄のことすら知らないのだから赤松円心という人を知るわけがない。


「知りませんねぇ。どんな人だったんですか?」


すると先輩はその言葉を待っていたとばかりに


「赤松円心はね、後醍醐ごだいご天皇の息子の大塔宮護良おおとうのみやもりよし親王の令旨りょうじに賛同して鎌倉幕府に反旗を翻した勇将で、楠木正成が千早城で幕府軍を引き付けている間に播磨の佐用さようの荘と言う場所で挙兵して、京都の六波羅蜜寺ろくはらみつじを何度も攻撃して鎌倉幕府の軍勢を翻弄ほんろう、楠木正成と二人で鎌倉幕府滅亡の遠因を作ったのよ。」


先輩はちょっと早口で私にも理解できるように簡潔に説明する。


そして何より嬉しそうだった・・・


「そうなんですね。たった二人の人間の活躍で滅亡するなんて・・・」


「単純に二人の活躍とは言えないけど、もっと言えば大塔宮護良親王の活躍とか元弘げんこうの変を語るなら正中しょうちゅうの変の日野資朝ひのすけとも日野俊基ひのとしもとの謀議とか、多治見国長たじみくにながの反乱とか恐らく裏で暗躍していた可能性がある北畠親房きたばたけちかふさとか、ああ・・・もう、元弘の変はやっぱり簡単には説明できないわね。」


そう言って頭を悩ませると先輩はメモ帳とペンを取り出して何かを白紙のページに書こうとしていた。


訪ちゃんはそれを見るとあわわわと大慌てでメモ帳を抑え込んで


「あかんあかんあかん!今は元弘の変とか関係ないやろ、赤松家の再興の話やねんから赤松円心の活躍はいらんねんで!」


と言ってメモ帳とボールペンを先輩から取り上げた。


先輩は訪ちゃんの手に取り上げられてメモ帳とボールペンをみて


「返しなさい!元弘の変の相関関係を書こうとしていたのよ!」


先輩はかなり不機嫌になっていた。


でも訪ちゃんはかなり冷静に


「ちゃうねん、ほんま元弘の変とか観応擾乱かんのうじょうらんとか南北朝合一なんぼくちょうごういつとか、そのへんの話になると見境なくなるからいつでも止めれる準備をしてたんや。ちょっと冷静に考えてえや、今は赤松家の再興の話をしたかったんちゃうんか?それも話しは長そうやけど、元弘の変とかの話からスタートしたら赤松家歴代の話からスタートしてまうやろ。ちゃんといつものあゆみ姉みたいに要点を説明しようや。」


そう言いながら訪ちゃんは先輩のメモ帳を取り返そうとする先輩の手を腕を目一杯伸ばして腕を上に上げたり右に素早く動かしたり下に降ろしたり素早い動きで避けながら暴走モードに入った先輩をさとしていた。


流石に先輩も普段は冷静なだけあって訪ちゃんの言葉に一瞬手が止まり


「大切な話なのだけれど・・・確かに嘉吉かきつの変とは関係は少し薄いかもしれないわ・・・」


と腕を組んで頭を捻った。


「うちも嘉吉の変とかには詳しくないけど、多分全く関係ないと思うで。」


訪ちゃんはそう言い切った。


すると先輩は何やら早口でブツブツと独り言を言い出す。


「そんな事ないわよ。赤松家が嘉吉の変の頃にはどれほどの立場だったかを理解するには赤松円心や赤松則祐のりすけの北朝でも立ち位置を理解しなければいけないわ・・・じゃあ少なくとも元弘の変に置ける大塔宮護良親王に円心の息子の則祐が近侍きんじしていて、そのため円心は南朝方と縁が深かったとか、実はその赤松氏は村上源氏の末流で、村上源氏のうじの長者である北畠親房とは実はネットワークがあったとか、大塔宮護良親王は北畠親房の娘を正室にしていて、だから村上源氏の末流の赤松氏との繋がりがあったとか・・・」


「あっ、あの先輩・・・?」


先輩がなんだか壊れた機械みたいにぶつぶつと言いだしたので心配になって声をかけると


ハッと何かに気づいたようにポンと手を叩いて


「じゃあ結局元弘の変の話は外せないじゃない!」


と声を上げた。


「あほか!その話で一日終わらせすつもりか!」


訪ちゃんは先輩に鋭く突っ込んだ。


先輩は物足りなそうに頬に手を当てて困り顔で訪ちゃんを見ていた。

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