四十九の城
街の発展はお城とともにある。
お城は発展の目印でもあり、地元の人の
大阪の人にとってはそれが大阪城であり、明石の人にとっての誇りが明石城になるんだな。
そしてその象徴が南東の
私達は今その坤櫓の前にいた。
坤櫓は少しスマートな巽櫓と比べると幾分か大きく見える。
少し全体的に奥行きとか幅とかが大きいのかな?
三重の櫓という点では巽櫓と相違無いが、全体的に一回り大きく見えるので坤櫓のほうがどちらかと言うと強そうに見えた。
「なんか大きく見えます。」
私はお得意の月並みな感想を述べると訪ちゃんも
「うちもそう思う。」
そう言って同意してくれた。
「私も直接は測ったわけではないけど大きいと思うわ。それに
虎口先輩はそうやって唐破風と言われるフニャッとしたデザインの屋根を指差してそう言った。
「そう言われると巽櫓のほうが同じ唐破風があってもシンプルなデザインですね。」
私もお城のデザインに詳しくはないけど知らない私が見ても珍しいことはひと目で分かった。
「そうやな、多くのお城を見てるけど切妻屋根に唐破風を連ねてデザインするのは珍しいと思うわ。」
訪ちゃんもそう言うのだからそうなのだろう。
「巽櫓と同じように坤櫓も移築櫓なのだけれど、坤櫓は
伏見って京都から来たのか、
大変だったんだなあ。
こんな大きなものを京都から明石まで移動させるなんて運んだ人も相当大変だったに違いない。
「あそこの
「丸軒って、瓦の丸いところか?」
訪ちゃんが聞くと先輩は頷いた。
「そう、あの瓦に
「お、ほんまや。豊臣家の家紋や。」
さすがに訪ちゃんは誰の家紋かは分かっているようで即座に誰の家紋か答えていた。
「豊臣さんの家紋って桐なんですね。」
桐ってあんまり見たことが無いけど藤に似ている花だよね。
藤の逆?みたいな感じ?
私はそんな変なことばかりが頭の上に浮かび上がっていた。
「桐の紋は天皇から家臣に与える高貴な紋なの。秀吉は信長の家臣の時代に信長から五三の桐と言う家紋を使用しても良いという許可をもらって使用していたのだけれど、姓を豊臣に改めた時に
先輩はとても楽しそうだった。
いくら徳川さんに信用されている
それを敢えて使用しているのだから伏見城からの移築櫓って言う事もあながち伝説じゃないのかもしれない。
「じゃあこの桐の紋が移築の証明書みたいなもんですね。」
私は何気なく二人にそう言っていた。
すると訪ちゃんは
「おー!そやなぁ!」
そう言って感心してくれた。
私は訪ちゃんがそうやって驚いてくれたことに鼻高々だった。
先輩も
「城下さんの言う通りね。実は昭和57年に改修作業を行った時に移築痕が見つかって伏見城からの移築っていうのはほぼ間違いがないと推定されたの。」
じゃあ京都から長い道のりを櫓を移送してきたのは確定なのだね。
本当に大変な長旅をしてきたのだね。
私は坤櫓に
「長旅お疲れ様でした。」
と小さく呟いた。
「ほんまや、大変やったんやで。」
櫓から変な声色の声が聞こえたような気がして私はキョロキョロとあたりを見渡す。
櫓も京都出身だから関西弁なの・・・?
先輩は珍しくクスクスと笑っていた。
訪ちゃんは何事もなかったように後ろ手を組んで巽櫓を見上げていた。
すると先輩は
「訪、何知らんぷりしてるのよ。」
訪ちゃんにそう言って更にクスクスと笑った。
どうやらさっきの声は訪ちゃんだったのだ。
「なんのことや?」
バレていると分かっててしらばっくれる訪ちゃんはなんだか子供みたいで可愛かった。
まあ、訪ちゃんはだいたい可愛いけど。
「長旅大変やったから今度コーラおごってや」
とさっきと同じ変な声色で再びそう言った。
「長旅ならコーラよりスポーツウォーターのほうが良いよ。」
私は訪ちゃんに乗っかると
「コーラが美味しいからええんや。」
と返してきた。
「コーラばっかり飲んでたら糖分とりすぎになるわよ。」
先輩は訪ちゃんに少し厳し目にピシャリと
私達はなんだか楽しくなって声を出して笑っていた。
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