四十七の城
「さあ本丸に入ろうや」
そうやって訪ちゃんは
さっきまで
「城下さん、行きましょうか。」
そう言って私を
私も本丸に入るワクワク感が到着時よりも更に増していたので足早に二人を追いかけていた。
『お城の成り立ちを知ると今までただそこにあったお城がより深い味わいを持つ。』
何故かふと頭の中にそんな言葉が思い浮かんだ。
確か私が小学生の頃、お城に連れて行ってくれたおじいちゃんがそう言っていたような気がする。
そう言えばあのとき行ったお城って何城だったのかな。
『このお城は家康が青春時代を過ごし、最後の時を過ごした城なんだよ。家康は富士山を見ることが出来るこの場所が好きだったんだ。』
今思い出すと白くて
「静岡のおじいちゃん、元気かなあ?」
私は誰に言うでもなく呟いていた。
「どうしたの?」
呟きが聞こえていたのか先輩が声をかけてくれた。
「いえ、なんでも無いんです。急にお城好きのおじいちゃんのことを思い出したので。」
なんだか親族の話を先輩とは言え他人に話するのはなんだか気恥ずかしい。
私は少し照れながらそう言った。
「お城が思い出させてくれたのね。とても素敵なことだと思うわ。」
先輩の言葉に私はなんだかおじいちゃんとの思い出がとても誇らしく思えた。
どこのお城なのかはすっかり忘れてしまったけど、でもせっかくお城好きになったんだ。
私もお城に詳しくなって、いつか記憶を辿っておじいちゃんと一緒に行ったお城に一人で行ってみるんだ。
『頑張るぞー!』
まるで推理ゲームに挑戦する探偵のように心の中で密かな決意をして心の炎に燃料を投下した。
そんな私を見て不思議そうな顔をしている先輩に
「どこのお城かはもう忘れてしまって。おじいちゃんは家康が青春時代を過ごしたお城って言っていました。」
そう話の流れで簡単に伝えた。
すると先輩は私の言葉に何も考えずにものの数秒で
「それは駿府城ね。」
とすぐに答えを返してくれた・・・
「あっ・・・はい・・・」
ホームズ、貴様・・・
私の心の炎はものの数秒で沈下された。
「何やっとるんや?こっちこっち!」
心の炎を沈下されて真っ白になっていた私とニコニコと不思議そうにしている虎口先輩、そんな二人を訪ちゃんは少し遠間から手をメガホンにして呼んでいた。
「訪が呼んでるわ。」
そう言って白くなっている私を呼び覚ましてくれた。
「は、はい!」
私は止めていた足を再び本丸に向けて歩みを進めた。
二の丸からも見えていたのだけれど巽櫓は遠間から見るとそれほど大きくないように見えていたが近くで見ると物凄く大きく見える。
お城のことを少し知ったからかもしれないな。
私はそう思った。
「巽櫓って綺麗すぎて復元の櫓と間違ってしまうけど、これで現存なのが凄いな。」
訪ちゃんは巽櫓を見上げてそう言った。
高い位置にある太陽が巽櫓をより白く輝かせる。
確かに最近作られたように感じるくらいの綺麗な色をしている気がした。
「この巽櫓と奥の
移築されてきた櫓・・・
じゃあもっとお歳を召しているのですね。
お城よりも更に年齢を重ねている櫓、そうきくと最近作られたものと見間違うくらいにきれいな櫓も重々しさが増すと言うものだ。
「巽櫓は元々近くにあった
先輩のお城を見る目はいつも優しい。
そんな先輩の隣で訪ちゃんはパシャリとスマホのシャッターを切っていた。
「なんかあれやわ、高山右近の作ったお城の天守やったって考えたら、もの凄く感慨深いわ。」
訪ちゃんはそう言ってパシャパシャとアングルを変えて写真を何枚か撮影した。
「右近は船上城の築城して2年程度でお城を追放されてしまうのよ。秀吉はかなり惜しんだみたいだけど、大名の地位を捨ててキリシタンとしての道を最後まで追求し続ける右近は宗教など道端の羽虫のように踏み潰されるような戦国時代の中で最も特異な存在だったかもしれないわ。」
先輩は右近という人の事を戦国時代の荒々しい時代の中で特殊な人生を歩んだ人みたいだし、ちょっとだけ尊敬しているのかもしれない。
明石城の巽櫓はそんな立派な人が作った天守だったのだな。
私は巽櫓の事がまるで本物の明石城の天守のように見えていた。
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