四十四の城

虎口こぐち先輩に少しだけめられて私は少しは成長したのかなって素直に嬉しかった。


もっとたくさん三人でお城のことを楽しめるようになったら良いな・・・


私は少し成長した自分を感じることが出来たことでほんの少しだけ二人に近づけたように感じることが出来た。


「それにしても二の丸に入って直ぐに本丸の入口があるのってなんというか攻めてくださいって言う感じがしてすごい自信ですね。」


なんとなくだけどそんな感じがした。


「そのとおりね。お城側はどうぞ本丸を攻撃してくださいって言っているようなものだけど、それが罠なのよ。」


先輩はほおに手を当てる。


「ほら、このCGマップ見てみ。」


たずねちゃんはスマホを取り出すとARアプリを起動してお城のCG画像を見せてくれる。


そこにはARとはまた違ってお城をCGで再現した3Dマップが画面上に映し出されていた。


「今うちらがこの本丸と二の丸をつなぐ橋の前におるやろ。この橋見てみ、壁がなくても狭く感じるけど、壁があったらもっと圧迫される感覚を受ける細さやろ。」


そう言って画像を指差す。


確かに橋は物凄く細かった。


そして橋の前面には本丸を守るための巽櫓たつみやぐら渡櫓門わたりやぐらもん鎮座ちんざしている。


現在私達が見る明石城の本丸に通じる橋には何もなく見通しが良いが一体壁があったら何人がこの橋を渡ることが出来るのだろう。


本丸を防御する側は少人数で橋を渡ってくる敵を悠々ゆうゆうと鉄砲で迎え撃てば良いのだ。


「想像するだけでも恐ろしい橋だね・・・」


私は画像を見て素直にそう思った。


「城下さん、さっきのことを思い出して。この二の丸は孤立した空間なの。本丸ばかりにかかりっきりになっていると損害ばかりが増えるし、敵が油断している間に東の丸から背後を襲われるのよ。とても恐ろしい空間よね。」


そうか、だから二の丸の渡櫓門を抜けることが出来たら直ぐに本丸と連結するための橋を見せてるんだ。


細い橋はそこが重要な場所ということを示している。


と言うことはそれだけ注目が集まりやすい、必然的にこの橋を無理矢理にでも渡ろうとする敵が出てくるんだ。


すると敵の背後にきができるその好きに東の丸が付け入って攻撃するのか、とんでもない巧妙こうみょうな罠だなあ。


お城を作った人の巧みな罠に空恐ろしさを感じた。


「怖いね・・・」


私は神妙な顔で言った。


「そうやな、この二の丸はホンマに怖い。けどこの3DCGを見ても分かると思うけども本丸に入るには迷路のような三の丸御殿から坤櫓ひつじさるやぐら稲荷曲輪いなりぐるわの猛攻をしのいで稲荷曲輪に侵入して搦手からめての櫓門を攻撃するか二の丸から正面突破するしか方法がないねん。本丸の守りと東の丸の挟み撃ち攻撃は正に二本の刀やな。」


訪ちゃんはCGをグリグリと動かしながら解説してくれた。


二本の刀かそう言えば宮本武蔵がいたんだよね。


「このお城って二刀流の宮本武蔵が案を練ったのかもしれないね。」


私はギョロ目で二本の刀をぶら下げる赤い羽織を来た武蔵の姿を思い浮かべていた。


「ありえない話ではないわね。なにせ武蔵が小笠原家に寄宿出来たのも兵法家という側面を買われてのことだから、一部案を出すくらいはしたと思うわ。」


虎口先輩は私の頓狂とんきょうな私の意見を真っ向から否定せずむしろ受け入れて肯定してくれた。


『私の素人の意見を否定せずに聞いてくれて嬉しいな。』


武蔵がお城づくりにどこまで関わったかはわからないけど高名な武蔵は確かに存在したのだからいろいろな考案をしたはずだ。


それなら二本の刀のようなお城の作りを意見したのも武蔵だった可能性は0%じゃないんじゃないか?


訪ちゃんは私の意見に


「そうであってほしいな。明石城の築城は幕府の殆ど天下普請やったから武蔵の意見はどこまで聞き入れられたか分からんけど、とにかくそうであれば嬉しいなっていう気持ちはさぐみんと一緒やで。」


訪ちゃんも私の意見には比較的肯定的に捉えてくれていた。


ところで天下普請ってなに・・・?

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