四十三の城

明石城の石段はそれほど高く作られていなくて中段から二の丸までの階段はなだらかで段数が多く、どちらかというと坂道みたいな作りだったが二の丸まで登り切ると意外にも中段からの高低差がかなりあるお城だった。


「さぐみん、後ろ振り返ってみ。」


たずねちゃんは私にそううながすといち早く後ろを振り返っていた。


私も釣られて振り返ると明石の街が一望できるほどの高さだった。


一生懸命階段を上がってようやく到着したら気持ちの良い景色に出会えて疲れが吹き飛ぶ、そういう感覚はハイキングにも通じるし、お城の場合はハイキングをするよりも近くて手軽だから余計にお得感があるかもしれないなあと感じる。


近くの風景は明石城の元三の丸、現公園部分を一望でき遠くは東側を見ると明石海峡大橋あかしかいきょうおおはしが、正面は明石駅前のビル群、西は加古川方面を眺めることが出来るらしい。


全部私はまだ行ったことのない場所だ。


それでも上空から見つめるとその場所に行ったような気になるのは不思議だなあと感じていた。


明石城は海沿いのお城だから海風が吹いてくるが、蒸し暑い初夏の日差しにはその海風がとても心地よく、虎口こぐち先輩のきれいな長い髪は大きく風にたなびいていたし、訪ちゃんの右側でまとめた小さなサイドテールも風でパタパタと元気よくはためいていた。


「あの大きな橋が明石海峡大橋だよね。結構高いところまで登ってきたんだね。」


二の丸のベンチや櫓跡に作られた展望スペースには結構人が座っていた。


お仕事休憩中のOLや近所の散歩に来たおじいさんが座っている。


やっぱり気持ちのいい場所なんだ。


「駅からのアクセスが良くて、石垣も堪能できて、希少な三重櫓を二基も見れて、その上心地の良い風を味わいながら街の景色を堪能できる。大阪からも近いし。」


訪ちゃんは満足げだった。


「そうねぇ、姫路城も彦根城も駅までのアクセスは全然悪くないほうだけど、明石城のアクセスの良さに勝てる城となると福山城くらいかしらね。福山城は駅を降りたらすぐに本丸だから流石に明石城も勝てないかしら。」


訪ちゃんの言葉を受けて虎口先輩はそういうと


「ちなみに三原城は駅が既にお城の内部だから、厳密にはお城への到着時間は0分よ。」


三原城があまりにも駅に近かった事を思い出してクスクスと笑った。


「ああ・・・三原城な。あそこはアクセスの良さをランキングにしたら、反則って言うランキングになるわ。天守石垣意外殆どが都市開発で消えてるし・・・」


訪ちゃんは渋い顔してそう言った。


お城好きからしたら遺構の殆どが消えてるのは寂しいかもしれないし、悔しいのかもしれないなと訪ちゃんの渋い顔をみて私はそう思った。


「ところで城下さん、私達のいる二の丸はちょうど城郭の中の真ん中の部分にいるわ。特に私達が登ってきた階段は階上に渡櫓門わたりやぐらもん、背後に当たる石垣には二の丸櫓が置かれていて相当守りが強い場所だったの。その上、二の丸はいつでも敵に制圧されても良いように作られていたの。それはなんでだと思う?」


虎口先輩は突然の難問を私に出題してきて口ごもってしまう。


すると訪ちゃんがはい!って元気よく手を挙げて問題の答えを解こうとした。


「答えは・・・」


「訪はダメよ。あなたは答えを知ってるでしょ?城下さん、何でも良いから答えてみて?」


先輩は訪ちゃんを制すると優しい口調で私に問題に答えるように促した。


「何でも良いから、ですか・・・」


そう言われると私は少し考え込んで西側の本丸と二の丸を繋ぐ橋をみてこれだと思った。


「この橋が凄く細いから敵が直ぐに本丸には攻めれないからですか?」


私は半分当てずっぽうで答えると訪ちゃんは感心した顔になり、先輩も手をパチパチと小さく叩いてくれた。


「少しだけ正解。そこだけじゃダメなの、二の丸は主郭の真ん中の部分に当たる場所だから急所にも相当するの。だから守りを強く作られているんだけど万が一制圧された場合、この二の丸は捨てて本丸と東の丸だけを細い通路で連絡させてあって、お互いに連携をとって挟み撃ちにして、敵が攻撃してきたら細い橋を頼りに防御するように作られていたの。」


少しだけだけど正解した!


私は先輩にめられて今まで教えられた事は無駄じゃなかったんだ。


そう感じることが出来た。


今までの私だったらポカーンとしていただけだっただろうに、それをほんの少しとは言え正解できたのだから私は大きな成長をしたのだ。


成長の喜びを感じて私は少ししか正解していないのに浮かれていた。

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