四十二の城

いつかお金を貯めていつか行きたいお城に行こうという話になったことでたずねちゃんが元気を取り戻した。


いつ果たせるかはわからないけれど私達はきっと三人で遠くのお城に行くと思う。


その頃には私ももう少しはお城のことに詳しくなっているのかなあ?


そう思うとワクワクしてくるんだ。


私は見知らぬお城を背に先輩と訪ちゃんに私しか知らないお城の話をして”オーッ”拍手されている想像をして、なんだか全然今の自分とは違うのに誇らしい気持ちになっている自分がいた。


「何ニヤニヤしとるんや。」


想像の中でドヤっている私の顔色がどうやら現実にもリンクしていたようでフンスと荒い鼻息を聞いて訪ちゃんが私の顔をのぞき込んできた。


「あ・・・いやあ、何にもないよ。それよりも石段に登って上の段に行くんでしょ?」


私は誤魔化ごまかすようにそう言ったが訪ちゃんはいぶかしげな顔をして


「また想像の世界に旅立ってたんか。まあええけどな。」


そう言って本丸にある櫓を見上げた。


「ほらほら見てみ、直下から見上げる巽櫓たつみやぐらは意外と迫力があるやろ。」


訪ちゃんが見上げる先には駅で見た三重の櫓が大きくそびええていた。


「本当だね、駅で見たときより一段と迫力があるよ。それに白い壁からもう一つの櫓がまた良いアクセントになっているね。」


私も同調した。


「明石城は三重の櫓が二基残っているのだけどこれは実は凄いのよ。日本には櫓の遺構いこうはたくさん残っているのだけれど三重の櫓は天守と同じで十二基しか現存しないのしかもその内の二基が明石城にあるものなのよ。」


虎口こぐち先輩も私達と一緒に巽櫓を見上げた。


「三重の櫓は櫓の中でも最も格式が高いもので現存の天守も実際は天守代用櫓と言われている御三階櫓ごさんかいやぐらと言う三重櫓が含まれているの。」


「天守でも実際は櫓って言うのがなんか不思議な感覚ですね。」


先輩の話に感心して私がそう言うと訪ちゃんは


「さぐみん、前にも教えたけど天守は天守櫓っていうて、大きな櫓として作られただけやから、迫力も規模も違うものではあるけど実際に櫓やねんで・・・」


そう言って訪ちゃんは笑った。


確かにそういう話をしていた気がする。


「たはは、確かにそういってた気がするなあ・・・」


私はポリポリとほおを人差し指でいて照れ隠しした。


「天守は櫓だけど権威を誇示するものでもあるから、大きくて華美に作られる傾向があるの。それとは違って単なる櫓は防御のための施設だったり武器を管理するための蔵だったり、用途がシンプルだったから天守と比べると目立つ飾りがあまりないの。例えば丸亀城まるかめじょうの天守は天守代用櫓だから近くで見ると派手さや迫力がとぼしいと思われることがあるけど、天守を遠くから見た時に視覚効果で大きく見せる工夫をしていて、遠くから見ると日本一高い高石垣も相まって物凄く見応えがあるわ。」


そう言って先輩は今度合宿で行くかもしれない丸亀城を例に上げて説明してくれる。


先輩は丸亀城に行ったことがあるのかもしれない。


なんだか丸亀城の天守を思い出しながら話していたようだった。


「大阪城にも沢山の三重櫓が残っていたらしいのだけれど、その全てが焼けてしまったわ。現存の三重櫓のうち青森県の弘前城ひろさきじょうが三基、高松城が二基、そして明石城が二基現存してるからこれらのお城に残された三重櫓が十二基の内の半分を占めていることになるわ。」


先輩は大阪城の空いた櫓台を想像したのか少しさみしげな顔をしていた。


「明石城の櫓って天守に次いで凄かったんですね。櫓だけだと何気なく風景になってしまいそうだけど物凄く奥が深いです。」


単純な私はシンプルな感想しか言えずにいた。


「大体は天守がお城って認識してる人のほうが多数やからな。」


そう言って訪ちゃんもしんみりしてしまった。


訪ちゃんは最初に出会った時も天守がお城って言う認識やって寂しそうな顔をしていたけど、私も遅まきながらお城に触れるようになったことでそういう気持ちが少しは理解できるようになったかもしれない。


「でもなんかあれだね。現存の天守も十二、現存の三重櫓も十二ってなんか奇遇きぐうだけどお城は十二に縁があるのかもしれないね。」


私はしんみりした空気をなごませるつもりでそう言った。


すると訪ちゃんは気づいていなかったのか


「そういやそうやな。うちも今気づいたわ。」


といってお城のことで初めて私の言葉に感心してくれた。


先輩はもともと気づいていたようで


「さすが城下さん。そうなのよ。私もなにか理由があって十二なのかなあと昔は考えたことがあったのだけど単なる偶然みたいね。でも偶然とは言え凄いことよね。」


そう言って笑ってくれた。


私は二人に初めてお城のことで二人を感心させることが出来て、物凄く満足感を味わって腰に手を当ててフンスと鼻息を荒げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る