三十七の城

明石城には宮本武蔵みやもとむさしがいたらしい。


あの有名な二刀流の宮本武蔵さんだ。


武蔵は若い時の武者修行が有名だけど歳を取ると色んな大名のお客さんとして居候いそうろうをして生活をしていたらしい。


聞くところによると昔は居候で生活のお世話になっても大名が困った時に大活躍をしてくれると居候でも許してもらえたらしい。


虎口こぐち先輩がそう言っていた。


そういう人たちのことを食客しょっかくというのだという。


食客は一芸に秀でて特別な能力を持つ人だとなれるようで、武蔵は武芸と書画に優れていたのでそういう存在になれたようだ。


なんか好きなことをして生きていけるのって羨ましいなあって言うのが私の率直そっちょくな感想だった。


たずねちゃんは公園の真ん中にある庭園の入口の前に立って看板をの横に立って


「ここが武蔵が造園ぞうえんしたって言われてる庭園と茶室らしいで。」


そう言うと庭園の中の茶室にパタパタと駆けていった。


私もお茶室の縁側に座りたくって訪ちゃんの後を追って駆けていた。


先輩はゆっくりと私達の後を着いてくる。


お茶室に到着すると訪ちゃんも暑さに疲れたのか縁側に座ってコーラを一口飲んでケプッとすると


「あっついなあ。」


と一言らした。


私も同意見だ。


「そうだねえ、急に熱くなったよ。これ本格的になったらどうなるんだろうね。」


そうすると訪ちゃんは暑さに参った顔で


「想像もしたくないわぁ・・・」


と言ってぐったりとした。


先輩は暑さを感じていないのか涼しげな顔で


「少し休憩しましょうか。」


そう言って縁側に座ったその姿は凄く様になっていた。


座り方に品があるのだ。


私には同じようになれないと思わされた。


「ここの庭園は大粒の石を活用した質素かつ無骨な庭園ね。武蔵の半生を表したような武芸者風の作りだと思うわ。庭園とお茶室は復元なのだけれど近隣の住人が良くこのお茶室の縁側で休憩していたり石に腰掛けて日向ひなたぼっこしたり親しまれているのがよく分かるのよ。」


先輩は太陽の光をポカポカと浴びてのんびりとした時間を過ごしている老夫婦を眺めて気持ちを和ませていた。


訪ちゃんは先輩の言った武芸者風という言葉が気に入ったのか


「武芸者風っていうのは確かに言い得て妙かも知れんな。庭園内に所々に置かれてるとがった石は地上から突き出した剣みたいで、いかにも乱世の最後に剣客として生きた武蔵らしさが出てると思うわ。」


そう言って武蔵の作った庭園を理解しようとしていた。


「武蔵って江戸時代の人ていう感覚だけど、戦国時代には生まれていたんですね。」


そう言って額ににじんだ汗をハンドタオルで拭うとお茶を一口飲んだ。


「武蔵は武芸者として当時有名だった新免無二しんめんむにと言う十手術じってじゅつの使い手の子として生まれたの。武蔵が生まれたのは信長が本能寺の変で横死してすぐのことで武芸者として諸国を武者修行して名をあげる中、関ヶ原の戦いや大坂の陣、島原の乱にも客将として参加したと言われているわ。」


武蔵って漫画とかで読むように武者修行の旅の印象が高いけど、三度の大きな戦いを経験した事がある武士だったのか。


「武蔵は明石城を作った小笠原忠真おがさわらただざねの食客やったから、忠真が明石城を作った時にこの庭を作ると同時に明石の町割まちわりにも積極的に参加したんや。」


武蔵って、いくさとかよりはどうしても武者修行の武芸者のイメージが先行してしまうけど、武士として戦で戦う武蔵、庭を作ったり明石の町を作るのに参加した芸達者な武蔵、私は普段漫画や物語で感じる狂暴な武蔵のイメージから遠く離れた別人の物語を聞いている気がした。


「一般で広がっている武蔵のイメージとはぜんぜん違うでしょ?」


先輩は綺麗な長い足を縁側でパタパタさせながら私にそう言った。


「はい、少なくとも私が知らない武蔵のイメージですね。」


「武蔵の晩年は芸術家や兵法家の側面があったの。そういう武蔵みたいに一般に先行したイメージと違った秘めた部分が知れるのもお城の良いところなのよ。」


先輩はそう言って可愛い笑顔を作って楽しげに笑う。


私はお茶室から明石城の石垣を眺めて今まで与えられることのなかった武蔵の隠れた部分に思いを馳せて


「はい!」


うなずいた。


私達二人のやり取りを見て訪ちゃんはちょっとウズウズしてきたのか縁側から元気よく立ち上がると


「じゃあ、もっと色んな知らんかった部分を知りに行こうか。」


そう言いながら大きなびをした。


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