三十五の城

「からくり人形・・・?」


私は虎口こぐち先輩と訪ちゃんがトイレ休憩を取っている間、大手門石垣の側に設置されている透明とうめいの建物を見上げていた。


透明の建物は石垣風の土台の上にガラス張りの部屋が作られていて、そこには太鼓たいことからくり人形らしきものが置かれていて、私はそれをあんぐりと眺めていた。


彼は眉が太くて目がギョロッとしていて侍みたいに紋付袴姿もんつきはかますがただ。


たずねちゃんは少し暑いのか駅で買ったコーラを一口飲んで手で顔をあおいでいた。


「あっついなあ、まだ6月やねんから、もう少し気温がおだやかでもええのに。」


そう言ってから手でもう一度顔を仰いだ。


「あれなに?」


私は彼が気になって仕方がなかった。


なぜ彼は威風堂々いふうどうどうと太鼓の前に立っているのか?


「あれは・・・そういやあ、明石城は近いから時々来るけど、うちはあんまり気にしたことなかったなあ。とき打ち太鼓って左下のガラスのとこに書いてあるから時間が来たらからくり人形が太鼓を鳴らすんとちゃうか?それにしても不自然な場所にあるなあ。」


そう言ってあごに手を当てて頭をひねる。


「もしも太鼓櫓跡たいこやぐらあとやったら、あんな最近作られたような石垣は変やしなあ。まあ明石は時の街として売ってるから、そういう観光誘致かんこうゆうちの一環なんかもしれんな。」


そう言って訪ちゃんは私と一緒にからくり人形を眺めながらもう一口コーラを飲んだ。


『太鼓櫓って太鼓が置いてる櫓ってことなのかなあ?』


私はからくり人形に心の中で聞いていた。


そんな疑問を頭に浮かべていると虎口先輩がハンカチで手をきながら私達の前に立って


「どうしたの?」


先輩が不思議そうな顔で私達を見る。


私はとき打ち太鼓を指差して


「あれって単に時刻を知らせるために増設されたんですか?」


すると先輩はなるほどという顔をした。


「あれはとき打ち太鼓っていうんだけど、もともと明石城の渡櫓門わたりやぐらもんは太鼓門って言われていて、街に近いことから時刻を知らせるために太鼓を置いていたのよ。もちろん有事の際には渡櫓門としても機能するのだけど、平和な時代には時刻を知らせるために活躍していたのよ。」


私と訪ちゃんはホウホウと話を聞く。


「本当は渡櫓門に太鼓を置いて展示するのが良いのだけれど、門はもう無いわ。それで市制70周年を記念して新しく建物を作ってロボットが太鼓を撃つ様を観覧できるように展示しているの。実際にロボットが時間になると舞をまったり、太鼓を叩いたりするのよ。偶然に見るのは難しいけど時間さえ合わせれば一定の時刻になれば音を鳴らすから見てみるのも面白いかもしれないわね。」


先輩はそう言ってとき打ち太鼓の側に立っていた看板に手を載せた。


看板にはとき打ち太鼓のプログラムが詳細に載せられていたが朝8時から夕方18時まで1時間毎に太鼓を鳴らしたり舞を舞ったりしているようだった。


次のプログラムは舞らしく、太鼓の音を聞くには更に1時間待つ必要がありそうだった。


「ちょっとまってられへんな。」


訪ちゃんがそう言ったが、本当は私はからくり侍くんが踊ってくれるのを少し期待していた。

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