三十四の城

私が横矢掛りよこやがかりの事で質問をしている合間を見てたずねちゃんはスマホを構えてあーでもないこーでもないと言いながら写真を撮っていた。


そして合間を見ては私達の話に参加する。


「まあ西に敵を押し込めてたとは言え江戸幕府の本拠地は江戸、すなわち東京やから自然と江戸との戦いになれば西から東に攻め入る形になるんやけどな」


訪ちゃんはスマホの画面をタッチすると虎口先輩こぐちせんぱいの説明に少しだけ遅れてから反応する。


「確かにそうだね。」


とにかく明石城の大手門に作られた横矢は全体的に西に向かって作られていることだけは分かったが、私はそれよりも訪ちゃんが大手門に来てから時々スマホの画面と格闘していることが気になって画面を横から覗き見る。


「ん?どないした?」


訪ちゃんは前に行ったり後ろに来たりしていたがスマホの画面を覗き見る私に気づくと、私にスマホの画面を見せてくれた。


「この赤い点線を石垣の縁に合わせて合成の所をタッチするとな・・・」


訪ちゃんが画面をタッチするとパシャリと軽快な音をスマホから小さくなった。


それと同時に石垣にCGで作られた門の画像がまるでそこにあるように写真に撮られていた。


これってARアプリという奴では?


「このアプリな点線に合わせて取ると昔の門とか建物をCG再現してくれるんや。」


そう言ってニカッと笑った。


「この点線が上手く当てはまりにくいからズレるねんな。」


それで何度もタッチしてたんだ。


ってさっき私に想像してみたらって言ってた時にこっそりタッチで撮影していたのは・・・


「私には門を想像させといて訪ちゃんだけアプリ使ってたなんて!」


私は訪ちゃんに抗議こうぎすると


「ごめんごめん、でも想像は必要やから。」


と言って私に軽く手を合わせて謝ると


「最近は便利やからホンマにこう言う再現CGはありがたいわ。」


そう言って撮影した画像をもう一度、私に見せてくれた。


「今は全国の史跡で積極的にAR技術が活用されているから本当にありがたいわ。明石城みたいにアプリになっているものもあれば現地でQRコードをかざすと画像が表示されて石垣に重ね合わせるような作りになってるものもあるし私も結構好きよ。」


虎口先輩もスマホの画面を私に向けるとそこには沢山のARアプリが画面上にひしめき合っていた。


「たくさんありますねえ。」


虎口先輩はゲームにはほとんど興味がないのか画面上には私達と連絡を取る用のSNSとお城のARアプリ、天気予報、地図アプリ、乗換案内と内容はかなり簡素だった。


「それにしてもありったけのARを入れたんやな。ゲームが一切ないわ。」


訪ちゃんは先輩のスマホの画面を右に左にスワイプしてゲームが無いか探していたがゲームらしきものは将棋バトルと言うアプリとほかはパズルゲームが少し入っているくらいだった。


「将棋って・・・おっさんか。」


訪ちゃんが茶化すと


「将棋面白いわよ。討ち取るか討ち取られるかのギリギリの切り合いの勝負・・・私好きだわ・・・」


そう言った瞬間の虎口先輩の目つきは殺気が走っていた。


これは本気の人だな・・・私と訪ちゃんはブルッと震えると虎口先輩の将棋のことについてそれ以上話すことはしなかった。




大手門の石垣を抜けるとパッと目の前の視界が一気に広がる。


目の前には東西に広がる重厚そうな石垣が横たわり、白い櫓が2基、石垣の上で主張していた。


「格好いい。」


素人目には駅で見たものと違って櫓を中心に見るお城だと思っていたが、意外にも建物がほとんどない分、石垣がまるでヨーロッパの石の要塞のような演出で私の目に写り込んできたのだ。


「石垣の格好良さを上手く主張しているお城でしょ?兵庫のお城と言えば別格の姫路城か天空の城と名高い竹田城を推す人が多いけど、街から近くて都市計画で城跡の殆どを失ってもおかしくないのに重厚な石垣の殆どが未だに残っている明石城はかなりのおすすめスポットだと思うわ。」


先輩は私が明石城の石垣を見て目をキラキラさせているのを嬉しそうに見くれていた。


「大阪城と違って巨石はないけど、総打込そううちこぎで作られてる大粒の石を使った石垣はホンマに要塞感が出てるわ。姫路城が世界でも特別やから仕方ないとは言え、ほとんどの旅行者が姫路城をまっさきに目指して明石城を素通りするのはほんまに勿体もったいなすぎると思うわ。」


訪ちゃんは残念そうに渋い顔で首を横に振った。


「それでいいのよ。」


先輩のあっさりとした反応に訪ちゃんは少し不満そうだった。


「だって、観光客がたくさん来たら私達がゆったりと楽しめないじゃない。それに明石の人達が楽しそうにお城に親しんでいるわ。それこそ平和な時代のお城のあるべき本当の姿じゃないかしら。」


先輩は赤ちゃんを連れた家族が芝生の上で寛いでいる姿を柔らかい顔をして眺めていた。


訪ちゃんは先輩の目線の先に気がつくと不満げな表情はなくなって


「そうかも知れんな」


そう誰に言うでもなく呟いた。


私も二人の言葉に頷いた。

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