三十三の城
「この石垣が
大阪城の大手門には門が残っていたからか圧迫感があったが、明石城の大手門は跡地なのでどちらかと言うと見通しの悪い通路のような感覚だ。
「同じ大手門でもやっぱり建物が残ってる大阪城の大手門と比べると石垣だけやとスースーとした感じやろ?でもお城はさぐみんが得意にする想像が最も重要やねんで。」
そう言って私に想像することを
「いくらなんでもそんなの無理だよぉ。」
私はそう否定してみたものの一応想像してみようと試みる。
この場所に、門があって、石垣の上に白壁が建てられていて・・・
目を閉じて想像するとぼんやりと門や白壁が目の前に浮き上がってくる。
「どやどや、さぐみん」
側にいる訪ちゃんも
そんな訪ちゃんの期待に答えるためにも私は想像力をフルに働かせて改めて目を開けるとまるでそこには立派な
無かったけれど脳内で想像することで少しは実感があったような気がした。
「少しは実感したけど想像で石垣に門を投影できるほど私まだお城に詳しくないから・・・」
そう言って頭を
「まあ一杯見てある程度覚えたら想像できるようになるんかもなぁ」
と言ってちょっとだけ残念そうにしていた。
そんな私に授業をするように虎口先輩はメガネを整えて
「明石城の大手門は当然規模は大阪城には劣ってしまうけれども目の前の石垣には高麗門と石垣の奥に
と丁寧に教えてくれた。
ここも枡形の門だったんだ。
規模が小さいから枡形も直ぐに人で一杯になりそうなのは簡単に想像できる。
「規模が小さいからこそ敵も簡単に大勢で門を攻めることが出来ないから、この小さな枡形はかなり防御には有用だと思うわ。」
そう言って先輩は説明をすると歩道の横にはみ出ている枡形の一部を指差して。
「見て、枡形の西側の側面が一部はみ出しているでしょ?あれは
そう言って説明した後指を東側の石垣を指差して
「東側も駅の方向にせり出すように石垣が前に出ているでしょ。道路もそれに合わせて狭くなっているわ。あれも横矢掛りなの。」
と先輩の説明が続いた。
横矢掛りって横に攻撃するために前にせり出すんだっけ?
「明石城の横矢掛りは全部西側に向かって作られているのはどうしてなんですか?」
私の質問に「おっ」と反応したのは訪ちゃんだった。
「さぐみんはええとこに気づいたな。」
訪ちゃんは私の頭をよしよしと少し背伸びして撫でてくれた。
虎口先輩も満足そうに頷く。
「その通りよ。明石城の中堀の横矢掛りは全部西に向いているの。理由は明石城が徳川幕府の
ふだいだいみょう・・・?
うーん、また分からないなあ・・・と頭を捻っていると
「譜代大名は関ケ原の戦い以前に徳川幕府に
訪ちゃんは詳しく私に教えてくれる。
前から思っていたけど訪ちゃんの知識も
「なるほど、そう言えば外様とか譜代とか授業で出てきたかも。」
そう言ってテストの答案を思い出した。
試験に挑んで勉強している時は覚えていてもそれを過ぎてしまうと忘れてしまうのが私なんだよな・・・
すると虎口先輩が
「じゃあ幕末の
そう言って私に授業の内容を思い出させようと質問を投げかけてくる。
「確か
先輩は首を縦に軽く振って頷く。
「そうね、ちなみに西郷さんの藩は
そこまで聞くと私も気づくことが出来た。
「西から敵が攻撃してくるって思ってたって言うことですか?」
私はそんな
「普通は予想できへんけど散々西の地方の大名ばっかり
訪ちゃんはペシペシっと空中を叩く
「そんなに薩摩と長州ばっかり虐めてたの?」
私は政治の世界でまるで小学生の喧嘩みたいにイジメが発生するなんて信じられないでいたが
「薩摩はともかく長州は幕府をメッチャクチャ恨んでたからなぁ。」
訪ちゃんはそう言って険しい顔になる。
「訪が言う長州もそうだけど、幕府は敵になりそうな大名を西側にほとんど押し込めたの。だから幕府は確実に西から敵が来ると思っていたわ。西側から幕府を攻めるとなると必ず通るのが山陽道、明石城はその山陽道を側面の山から睨みをかけるように作ったの。だから敵の軍隊が素通りできないように横矢掛りを西側に向けて作ったのよ。」
虎口先輩は腕を組んで私に教えてくれたが、政治の世界はよくわからないけど、西側に敵を沢山押し込めて結局西の人が全員で幕府を倒せってなったら危なくない?
そう思うとその結果が明治維新だったのかもしれないなと、私はなんだか良く分からないけどそう思うことで納得した。
虎口先輩は歴史を理解しようと努力する私を見てニコニコと笑顔になった。
まさか横矢掛りだけでここまで話が発展するなんて思っても見なかったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます