三十二の城

駅の改札口でお城のお堀を眺めながらお茶を飲んでいると、少しして天護あまもり先生と何故か少しだけ慌てている虎口こぐち先輩が私達と合流した。


「なんや、遅かったやないか。」


たずねちゃんは天護先生達がゆっくりと改札を出場するところを見てそう呟いた。


「あんた達が転がるように階段を降りて改札を出たんでしょ?私達が普通なのよ。」


天護先生が私達の目の前に立つとその後ろを少し顔が青ざめた虎口先輩が先生の後ろから


「おまたせ。」


と言うと先生と向き合っていた私達の横に立った。


「あゆみ姉、ちょっと顔青いやないか?もしかして幽霊が怖いんとちゃうか?」


そう言って訪ちゃんは虎口先輩を茶化すと先輩は


「あなたも同じでしょ。」


先輩は特に否定はせずに訪ちゃんに応じる。


先輩も幽霊が怖いんだ。


訪ちゃんの言葉を否定しなかった虎口先輩に私はなんだか親近感が増した気がした。


そんな私達を見て先生は


「じゃあ、私はそこの駅ビルのカフェに行くから、あんたらはお城思う存分堪能してきなさい。あゆみ、あとは任せたわよ。」


「はい。」


そう言って虎口先輩に後を任せると先生は駅ビルに向かおうとする。


「ちょう、後でお城に来るんやろ?」


訪ちゃんは天護先生を引き止めると先生は訪ちゃんの顔を見て


「あんた甘えん坊ね。まあ飽きたら行くわ。」


そう言って手のひらをひらひら振って駅ビルに消えていった。


訪ちゃんは少し残念そうにしているのを私は見逃さなかった。


「先生は後できっと来ると思うよ。だって先生もお城大好きだもん。」


私は訪ちゃんをはげますように言ってみたが


「まあどっちゃでもええけどな」


訪ちゃんは照れ隠しにそう言った。


虎口先輩は天護先生を見送ると


「じゃあ、大手門から行きましょうか。」


そう言って私達を先導してくれた。


日曜日で朝早くに到着しているから帰りの16時までには十分以上に時間がある。


ちなみに大阪から明石までの距離は思った以上に近かった。


新快速?っていうのに乗るとびっくりするくらいに飛ばすから30分かからなかったかもしれない。


私達の学校からは地下鉄から乗り換えないといけないけど、それを加味しても乗り合わせが良ければ50分程度で到着するようなそんな距離だった。



改札北口から横断歩道を渡るとお堀の横の歩道を鴨を眺めながら私達は大手門に向かった。


天気は快晴でとても気持ちの良い日だ。


少し暑いくらいの気温を感じながら歩いていると先輩が


「明石は時刻の街なのよ。」


と教えてくれた。


「ここからもう少し東の方に行くと明石天文科学館と言う場所があるのだけれど、そこは日本標準子午線にほんひょうじゅんしごせん上に立てられているのよ。日本標準子午線は南北に明石を含めて12市に走っているんだけど、明石は1884年にグリニッジ子午線の存在が国際子午線会議で確定されてから、その存在の重要性に着目してずっと子午線の街を謳っているのよ。」


そう言えば私もグリニッジ標準時と言う言葉は聞いたことがある。


日本の標準時刻を決めている線が明石の街を走っているのだと知って私はスマホの時計に表示された日本時間が明石を中心に生まれているのだと感心してしまった。


私が凄いなあとスマホの時計を見て感心していると、訪ちゃんが私の内心を読み取ったのか


「さぐみん、スマホの時計は明石から電波が飛んできて決めてるんやないで・・・GPS衛星やからな・・・」


私はハッとスマホから顔を上げて訪ちゃんの顔をマジマジと見ると段々と顔が赤くなって行くのを感じた。


「わっ・・・私、先輩の話を聞いて時間が気になっただけだから!」


「ほんまかぁ?」


訪ちゃんは疑惑の目を私に向ける。


「ほんまだよ!」


すると虎口先輩は


「GPS測位との誤差があるとは言え、ベースはグリニッジ標準時よ。子午線が定めたローカルタイムの基準となる明石の時計台とそう大きく時刻は変わらないわ。」


そう言って私を助けてくれた。


『先輩いつも本当に助かりますぅ。』


私は心の中で感謝した。


訪ちゃんは


「しゃあないなあ、そう言う事にしといたるわ。但し、明石は子午線の街なだけで時刻は東京で決めてるんやで。」


とニヤニヤと笑いながら私への疑惑の目は変わっていなかった。

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