拾四の城

たずねちゃんと色々と勉強しながら天守に到着すると、虎口こぐち先輩はすで天護あまもり先生と自動販売機の前のベンチで座って待っていた。


「あゆみ姉、おまたせ。」


訪ちゃんは手を振って虎口先輩に駆け足で寄っていった。


「天護先生、虎口先輩、おまたせしました。」


と私も挨拶をした。


「私もさっき来たところだから待っていないわ。」


虎口先輩はあまり気にしていないようだったが天護先生は違った。


「訪、あんたねえ、なんであゆみには声掛けて、私にはおまたせしましたの一言も無いのよ。そもそもあんたたち私より学校を先に出てるのにどうして私よりも到着が遅いわけ?」


天護先生は訪ちゃんの態度たいど苛立いらだたしげにため息を付いた。


「そんな苛つかんでも、先生とはさっきあったやんか。」


訪ちゃんは悪びれもなくそう言った。


「ほんとに口の減らない小娘ね。あんたと喋ってると糖分が足りなくなるわ。」


天護先生はフリスケの桃味を3個取り出して口に含んだ。


「まあええやんか、それよりもミライザでソフトクリーム食べてまったりしてくるんちゃうんか?」


訪ちゃんも天護先生を挑発する。


どうやら二人は犬猿けんえんの仲らしい。


ちなみにミライザとは天守の横にある明治風の建物の内部にある商業施設のことで、恐らくその中のカフェで天護先生はよく甘いものを食べているようだった。


「今日は城下さんが入部したから次の週末にどこのお城に行くか決めるために来たのよ。ソフトクリームはその後よ。クレープにするかもしれないけど。」


私は授業中の清楚せいそでたおやかでどんな出来事でも受け入れてくれそうな雰囲気をかもし出している天護先生と、今のまるで普通の女子大生のようにスイーツに執着しゅうちゃくして、訪ちゃんに平気で悪態をつく天護先生はまるで別人格のように思えて仕方がなかった。


私がそのようにまるで信じられないような天護先生の二重人格を見せつけられている間も訪ちゃんと天護先生は犬と猫の喧嘩けんかのように互いに威嚇いかくしあっていた。


虎口先輩はそんな二人に慣れているのか手をパンと叩くと二人は催眠術さいみんじゅつにかかったかのように二人共おとなしくなる。


「二人とも、仲が良いのもいいですけど、今日は来週の部活のことを相談するために集まったんですからね。」


「はい・・・」


二人は虎口先輩のりんとした雰囲気に飲まれてさっきの態度とは裏腹に借りてきた猫のように押し黙ってしまった。


「城下さん、早速なんだけど、来週の日曜日に城下さんの入部祝を兼ねて府外のお城に行こうと思っているの。これは天護先生から提案してくれたことなんだけど予定は開いてるかしら?」


予定なんてあるはずがない。


私は今は友達もいないのだからどこかに行くような話も決まっていないし、家族で親戚しんせきの家におとずれるような話も出ていないので私としては願ってもない話だった。


交通費が出ることは職員室で天護先生にうかがっている。


その点でも異存いぞんなどあるはずはなかった。


「私は特に予定は埋まっていないので喜んで行きたいです。」


私の答えに同調するように訪ちゃんも


「うちも予定はないで。」


と手を挙げて言った。


「よかったわ、行くお城なんだけど・・・」


虎口先輩が行く先を説明しようとすると訪ちゃんが


高屋城たかやじょうは・・・あかんで・・・」


と恐る恐る言った。


「府外のお城って言ったでしょ。高屋城も魅力的だけど、私も流石にちょっと城下さんに早いかなって思うわ。」


虎口先輩もそこは考えてくれていたようで行き先は流石にもう少しわかりやすい場所を選んでいるような口振りだった。


「そうかぁ!よかったわ!」


訪ちゃんは途端に笑顔になった。


よっぽど高屋城と言うお城に行くのは辛いらしい。


「私は距離的な事を考えて明石城あかしじょうがいいと思うんだけど、先生どうかしら?」


明石城ってどこにあるんだろうか、この辺の地理がよくわからないけど訪ちゃんが真っ先に反対しないということはかなりきっちりとした遺構いこうが残っている事はなんとなく分かった。


「明石城の近くって素敵なスイーツのお店はあったかしら・・・?」


先生はさっきからスイーツとかカフェのことばかり考えているな・・・


「そんなもんあるかいな、それに課外授業かがいじゅぎょうやねんからあんたもたまには一緒にお城の勉強してもええんちゃうか?」


訪ちゃんはあきれてしまった。


「私にとっては重要なことなのよ。それに私は毎日授業であんた達に勉強を教えてあげてるでしょうに、なんで外でも授業しなきゃならないのよ。私はお城に引率いんそつするまでが仕事よ。」


天護先生はどうやら時間外の授業はする気はないらしい、私達の部活の引率を兼ねてその土地の美味しいスイーツ探しを趣味にしているのだろうか・・・


そこも虎口先輩は心得ているらしく


「明石駅は綺麗きれいな駅ビルがありますから、そこに美味しいスイーツのお店があるかもしれませんよ。」


と言うと、天護先生は納得した。


「あゆみがそう言うなら大丈夫でしょう。明石城は駅から5分程度の距離だから、食べるのに飽きたら部活に付き合ってあげるわよ。」


訪ちゃんが天護先生に態度が悪くなるのが何となく分かった気がした。


「じゃ、来週は明石城ということで決まりね。私はミライザでクレープでも食べてくるから、あなた達は今からしっかり部活するのよ。」


と手をヒラヒラと振って天守の側の明治風の建物の中に消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る