三の城

私は他人の趣味をとやかく言うつもりはない。


誰にだって理解しがたい趣味嗜好しゅみしこうと言うものはあるものだ。


それは石を愛する石マニアだって同じだ。


堀江ほりえさんの石に対する熱意ねついは私には理解しがたいものだが、それ以外はとても可愛い小動物のような存在なのだ。


彼女が必死に肥後石ひごいしに対する熱意を身振り手振りで語っているところを私はボールとじゃれている子犬を見るような愛らしい目で見ていた。


「なあ、聞いとる?」


彼女の問いかけに我に返る


「ん?うん・・・」


「うーん、あんまりピンと来てないみたいやなぁ。」


堀江さんは悩まし気に首をかしげると


「これだけの大石はほんまに凄いんやけど、ちょっとマニアックすぎたかなあ。」


石を語るのにマニアックじゃないもないだろう。


石を語るのはどれもマニアックだよ。


私があきれていると彼女は私の手を引っ張って


「こっちや!」


と新たな石スポットに連れて行こうとしているらしい、私は手を引かれるまま付いていくしかなかった。


彼女と二人で公園沿いの道を南に下って少し歩くと西側には大きなビルが、東側には立派な石の橋と白壁しらかべの建物が見えてきた。


あれって、どこかの門かなあと何となく考えていると彼女はその門に近づいていく。


遠めに見ている分には大きさは分からなかったが近づくとものすごく大きな門だということが分かり、とても綺麗きれいな白い壁に強そうな黒い重厚な門がさすがに素人目にも目を引いた。


「これが大手門おおてもんや」


門は開かれていて開放的だが、内部は高い壁に囲まれている。


そして開かれた門からは堀江さんが好みそうな巨石が二つも目に入る。


なるほど、お目当てはこれか。


私は内心そう思うと彼女はいかにも待ちきれない感じで内部に入っていった。


私もそれに従って門内に入った。


大手門?の内部に入ると中は高い壁に囲われた空間になっていた。


凄く圧迫される。


なんか逃げ場のないような、そんな心地になる。


そう感じていると堀江さんは今度は私の顔を覗き込んで


「どうや、ここは分かりやすいんちゃう?」


と私の顔色を探ってきた。


「え?ああ・・・そこの二枚の石、大きいね」


私は石の事を聞いているのだと思った。


何せ私の中では堀江さんは石の形や大きさへのこだわりに定評がある生粋の石マニアと言う存在として確立してしまったからだ。


だが堀江さんの反応は違った。


「いや、まあそこの見附石みつけいしの事もそうっちゃそうやねんけども、この場所の事、どう思う?」


どうやら大手門の内部についての感想を聞いているようだった。


私は正直に答える。


「期待通りの答えかどうかはわからないけど・・・なんといえばいいのか、すごく圧迫感があって、当たり前なんだけどすごく囲まれて、逃げ場のないような気分・・・」


そう答えると彼女は


「そうや、城下さんはやっぱり素質があるね。これがこのお城の凄さやねん。」


と満足げに首を縦に振った。


堀江さんの期待には十分応えられたようだけど、彼女の言葉を聞いて今度は私が彼女に質問せずにはいられなかった。


「堀江さん、ここってお城なの?ここは門でしょ?公園の・・・」


彼女の目は点になっていた。


少しの間二人に沈黙が流れる。


そして沈黙が過ぎたのち彼女は言った。


「そこからなん?」


「そこから。」


「そこからかぁ!」


堀江さんは頭を抱えてった


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