四の城

堀江さんと私は大手門をひとまず出て城外の小さなロートンでお茶を買って落ち着いていた。


大手門近くのベンチに二人で腰を掛けてお茶を飲む、そういえば学校を出てから何も飲み物を飲んでいなかった。


美味しい。


堀江さんもミニサイズのコーラを買って飲んでいる。


「ぷはぁああ、美味しいなあ」


そう言って再びコーラをゴクゴクと体内に流し込むと小さく"げっぷ”した。


”げっぷ”と言うと下品だけど彼女のは”けぷっ”と愛らしい。


下品なことをしても可愛らしい、それが彼女の特殊能力なのだ。


可愛いは正義と人は言うが、それは彼女のことを言うのだろう。


これで石マニアでなければ言う事は無いのだが・・・


「なあ、城下さんにとってのお城って天守てんしゅの事を指すんかな?」


堀江さんからはまた一つ謎の用語が出てきた。


天守とはなんだ天守閣てんしゅかくなら聞いたこともあるようなないような。


私が疑問に思っていると堀江さんは目の前の大きな門の奥を指さして


「あそこの奥の緑の屋根の建物の事や」


と教えてくれた。


『ああ、大阪城の事ね。』


心の中で納得すると首を軽く縦に振った。


すると堀江さんは少し寂し気に


「まあそうやんな。知らん人にとってはお城=天守やもんな。」


と遠い目で天守?を見つめながらぽつりと言った。


「まあでも、それくらい知らん人に教える方が楽しいかもな!」


彼女は両手でグッと拳を作り、独り言を言うと再び気を取り直して言った。


「奥の大きな建物は天守櫓てんしゅやぐらって言うて、あれがお城の顔や、目の前の大手門はお城の入り口、東京かってスカイツリーを指して東京とは言わんやろ?東京は東京都の事や。」


「ほぉ、なるほどぉ。」


さっきまで興奮してキャンキャンと子犬のように走り回っていた彼女とは打って変わって冷静に分かりやすく説明してくれたことに関心して私はパチパチと小さく手を叩いていた。


拍手に気をよくしたのか彼女は顔を赤くして鼻を指でこする。


「せやせや、お城っていうのはな、お城っていう区画の事でな、敵に天守櫓に行かれへんように天守櫓を守ってるのが目の前の大手門や、だから天守櫓も大手門もお城やねん。」


なるほど、お城の定義はよくわかった。


じゃあ天守、天守閣、天守櫓、三つの言葉が出てきたが何が違うのか私はそれが知りたかった。


「天守、天守櫓、天守閣と何が違うの?」


質問すると彼女は素早くこたえた。


「一緒や」


彼女にとっては答え慣れた問いかけだったのだろう。


城素人にとって一番多い質問がそれなのだ。


「天守と天守櫓は昔からある言葉で天守閣はここ100年の間に生まれた言葉やねん。なんで生まれたんかは分からんねんけど、私はゴロがええからやと思っとる。」


「ほうほう、じゃあ天守に無くて天守櫓や天守閣に何かがあるとかそういうたぐいのものじゃないんだね。」


「そや、全く同じや。”てんしゅ”やとなんか物足りんし、”てんしゅやぐら”やと長すぎるやろ”てんしゅかく”やったら6文字で言いやすい、漢字にしても格好ええからな。」


そう説明してくれる堀江さんは何となく賢げに見えてくる。


私がこの短い期間に見てきた慌ただしくて、本をすぐになくしてしまう石マニアの女の子とはえらい違いだ。


「堀江さんって実は凄く賢いんだねぇ。凄くお城に詳しいし。」


「そやろ、私は賢いんやで。って実はってなんやぁぁ!」


彼女は一人で乗って一人で突っ込んでいた。


これが噂の一人乗り突っ込みと言う奴らしい。


大阪っ子、恐るべし・・・



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