二の城
図書室での堀江さんに本を返すと彼女とはすぐに分かれたのだけれども去り際に
「ほんならまた放課後にね」
とだけ言ってまたけたたましく去っていった。
そんな彼女が言った言葉に『放課後じゃなくてもクラスは同じだからすぐに顔を合わせるのに・・・』と不思議に思っていた。
授業が始まると彼女はチャイムぎりぎりに教室に飛び込んで席に座る。
席に座る直前に私を見てニカッと笑うと小さく手を振ってくれた。
私もおずおず振り返した。
そういえば彼女が教室に飛び込んだ時、本を手に持っていなかったがまたなくしたのだろうか?
その割には機嫌がいいから本は返したのかも
あんなに大騒ぎして探していた本なのにすぐに返すなんてやっぱり変な子だと思ったが、授業が始まるとそんなことはすっかり忘れて放課後を迎えていた。
清掃を終えて
「お待たせ!ほな行こか!」
不思議なことを言う人だ、私は待っていないし、どこにも行く気もない。
何のことを言ってるのかわからなくって呆けていると
「ボーっとしてんとはよ準備しいや」
よく分からないまんま彼女に促されると、私はハッと我に返って荷物を鞄に急いで詰め込んだ。
「よし、ほな行こか。」
私が帰宅の準備を終えたのを確認するや否や堀江さんは私に付いてくるように促してサッと教室を出て行った。
私はそんな彼女の背中を足早に追いかけていた。
「ちょっと!堀江さん!どこに行くの?」
準備が終わるとズンズンと歩を進めていく堀江さんを後ろから追いかける私はせめてもどこに行こうとしているのかを知りたいと思っていた。
私は運動関連はからっきしダメなんだ、だから少し走って
「なんや、城下さん、こんなところで息が上がってるん?そんなんじゃどこにも遊びに行かれへんやろ?」
「私のこの白い肌を見てアウトドア派だと思うならあなたは視力検査に行った方がいいよ。」
皮肉たっぷりに言ってやったつもりだったが
「そらそうやね。」
そう言ってニカッと笑ったその笑顔を見ると、今までの彼女の行動もしょうがない子だなあと思えるくらいに気持ちが明るくなる気がした。
そんなこんなで少し彼女と打ち解けた気になって連れだって歩いていると
「城下さんはお城好きなん?」
彼女は唐突に質問してきた。
「お城?うーん生まれてこの方関わるような事は無かったかな。」
少し悩んでから答えると
「へえ、じゃあなんで図書室で、あの本読んでたん?」
と矢継ぎ早に質問がきた
「教室で窓の外を見てると見えたんだ、大きなお城が、私あんなに大きくて派手なお城見たことがなくって・・・それに引っ越したばかりでこの地域の事を全く知らないから少しくらいは知っときたかったからかな。」
すると彼女は私の答えに満足したのか例のニカッと笑顔を見せて
「じゃあ素質は十分やな。」
と言った。
何の素質なのやら・・・
今のままだとどこに連れていかれるのかもわからないので今度は私が再び聞きそびれた質問をする。
「いったいどこに行くつもりなの?」
すると彼女は少し鼻息を荒くして
「フフン、すごいところやで」
と言って話を切った。
「秘密なの?」
「うーん、秘密やないけど、驚いてほしいからそういうことにしとくわ。」
彼女はどうやら物凄いものを私に見せて自慢したいらしい、そう聞くとすごく子供のいたずらっぽくて堀江さんがとてもかわいいと思ってしまった。
「遠いの?」
「別に遠くないで」
とはいえ見知らぬ場所に行くのは不安しかない、何せ私は土地勘がないのだ。
だから学校からは遠くないと言う答えを知れただけでも私は凄く安心だった。
そんなこんなでお互いに質問しながら15分ほど陸橋を渡ったりしてついに目的地に到着したらしかった。
彼女はその場所でずんと腰に手を当てて
「ここや!すごいやろ」
とドヤ顔で叫ぶように言った。
私はあたりを見回してみたがそこは大きな公園の入り口で、目の前には大きな石の壁とフンスと自慢げに腰に手を当てる堀江さんしか見えない。
私はあっけにとられてポカンとしてると彼女は
「これやこれや!」
と身振り手振りでアピールする。
「ああ・・・確かに大きな公園だねぇ、とても中は広そうだね。」
堀江さんが何を言ってるのかわからないから私は公園の自慢をしてるのだと思ったのだ。
東京にだってこれくらい広い公園はあるよぉ
とか言っちゃうと大阪の人には気が悪いと思って割と気遣った答えを言ったつもりだったがその答えは彼女の期待したものではなかったようだ。
彼女は顔を
「これやこれ!この
とパチンと音が聞こえそうなくらい強くその石垣と言うものを叩いた。
石の壁は彼女にはとても価値の高いものらしい。
「これはな、
とても満足げに教えてくれた。
堀江さんの事は出会った時から変だ変だとは思っていたけど、まさか石マニアだったなんて、そんなハイレベルな趣味は普通の私じゃとても理解しようもないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます