第17話 実力差
「新しい先生に不満があるのなら、力で示せば良いじゃないですか? ここはそういう場所でしょ?」
その言葉が、たかぶっていた生徒を余計に煽る形となった。
大会を通して自分の実力は、大体どれくらいの位置にあるのかは、おおよそ見当がついている。
リンやカミラ、学長や、裏切り者だがジョナサンも、皆僕の実力は本物だと証明している。
今更、自分が弱いなどと謙遜する気はない。
でも……面白そうになったからと、ニヤニヤしながらこっちを見るのはやめてほしい。
「いいだろう。オリエンテーションを兼ねて、校庭に集合だ」
世界一ともあり、トロウキヨ魔導学院は広い。
校庭だけでも、五つも存在しているのだ。
今回はその一つ、学長室の目の前、全校舎から見下ろせる場所に位置する第二グラウンドを選んだ。
「あの失礼な奴ら、ボッコボコにしてあげてください」
移動中、隣を歩くリンがにやけながらそう言ってくる。
「一応、彼らも生徒だからね……」
校庭につくと、気合の入った格好で既に数十人が構えていた。
え……こんなにいるの……僕のこと疑ってる人……ちょっとショック。
ショックを受けている場合ではない。ちゃんと僕が指揮を取らないと。
「どうする? 実戦でも、演舞でも、なんでも受けるが」
「もちろん実戦だ」
生徒の一人が声を上げた。身長は僕よりも高く、短髪のいかつい男子生徒だ。
「一人でいいのか?」
「ふん、チビが舐めた事言うなよ」
別に挑発のつもりじゃないのに。
にしても、名前がわからない。名簿くらい持ってきとけばよかったな。
「おい、線を引け」
男子生徒がそう声をあげると、周りの生徒が僕と彼のまわりに線をひき始めた。
なるほど、差し詰めこの子がリーダー格ってところか。自分の力にも自信があるのだろう。
「ルールは?」
「線から出たらアウト、リタイアするのもアリだ」
「なるほど」
「おい、合図を出せ」
「は、はい……はじめ!」
あっという間に始まってしまった。
ふとあたりを見回してみれば、校舎の方からもちらほらと視線が集まっていた。
学長が学長室にいるのであれば、おそらく学長も見ている事だろう。
リンはと言えば、最前列でニマニマしながらこの様子を見ていた。
僕の実力を知っている者からすれば、この状況が楽しくてたまらないに違いない。
当事者の僕にとっては、大変な迷惑だけど。
「よそ見だ? 舐めた真似しやがって。――〈炎帝の加護を受、」
詠唱途中だった生徒が、大きくバランスを崩した。
「あぶねえ!!」
「これが実践だよ。魔物は待ってはくれない」
一瞬静まり返り、そしてざわめきが起こる。
「い、今……詠唱してるとこ見えたか?」「い、いや……」「じゃあ一体今のは誰が!?」
しまった……僕の戦闘スタイルだと実力を十分に示せないな。
無詠唱だと、他の誰かの攻撃だと思われるみたいだし。
「おい! 誰だよ今魔法打った奴!!」
……僕なんだけど。
「卑怯な真似してんじゃねえぞ! バレねえとでも思ったのか? 少しは隠すくらいの努力はしたらどうだ?」
「隠すも何も、無詠唱ならばこれくらい当たり前だが」
言葉を聞かずに、男子生徒はまた長ったらしい詠唱を始めてしまった。
それならば、わかりやすい魔法で実力の差を思い知らせてやらねばならない。
どのみち、ここで手をこまねいているわけにはいかないのだから。
まずはジョナサンを見つけ出し、そしてキーラには同じ目にあってもらう。
スカウトされたのが昨日今日の出来事なので、まだ魔力は回復しきっていないが、少し派手な魔法を使ってみせよう。
「焼き尽くせ――
詠唱の終わった男子生徒が杖を突き出すと、先のあたりに、大人の頭部くらいの火球が浮かぶ。
長く時間をかけてこの程度。
これでは全くもって実践では役に立たない。せめて、大型獣1匹吹き飛ばせるくらいでないと、砲台としても機能しない。
また無詠唱だと、勘違いされるから適当に……
「撃ち落とせ――水魔法」
発射された水球が、僕と彼の中間あたりで大きく爆ぜた。
「な……」
「詠唱してから発動まですっげえ速かったな……」「しかもあんな適当な詠唱で、クロクスの火炎魔法を撃ち落としたんだぜ……?」「後出しであれって……何者だよ!」
この男子生徒、クロクスと言うのか。
魔力はエネルギーだ。それはさまざまに形態を変え、置き換わる。
魔力は主に魔法に使われるが、100%全ての魔力を魔法攻撃でのダメージに変換できる人間はいない。
せいぜい良いとこ50%。
なぜなら、発生の途中で様々な現象に置き換わってしまうから。
無駄遣いは良くないが、致し方ない。
「混合魔法――
瞬間、激しい光を発し、先程の火球の1000倍以上も巨大な火球が顕現する。
燃え盛る炎が、球体内部で嵐のように吹き荒れる。
「は……は? な……なんだよこれ……」
「君たちがこれから学ばなければならない、実践的な魔法だ」
「こ、これが……魔法……だ……?」
「これで十分力の差は示したと思う。降参するなら今だ」
流石に実力が伝わったのか、クロクスはしおれた顔で杖を下ろした。
「こ、降参す……します……」
「師匠ぉ」
授業も終わり、学長に挨拶をしに行こうと歩いていると、後ろから声がかけられた。
「リン? あ、そういえば、試験はどうだったんだ?」
「…………」
わかりやすく目を背けた。
かんばしくないみたいだ。
「……やっぱり、一日二日の付け焼き刃じゃ、天才には勝てなかったです」
「そっか、それじゃあ学費免除はお預けってことになるのか」
「そうですね……」
かわいそうだが、仕方ない。
話しているうちに、学長室についた。
リンもここに用事があるのかな?
学院の校章が装飾された豪華な扉を押し広げた。
「おお、来たか。見ておったぞ、初日からかましてくれたようじゃの?」
「観てたんですか?」
「まあ、目の前じゃしの。お? リンもおったのか? どうしたんじゃ?」
「学長、学費交渉しに来ました」
学費を値切る学生………?
これは流石に無理なんじゃ……。
「良いぞ?」
「え?」
随分と深刻そうな顔をしてリンは伝えたのだが、学長の淡白な返事に、間抜けな顔を晒していた。
正直……僕も肩透かしを喰らったというか、なんというか……。
「じゃが、条件がある。今度ある学院の一大イベント、トロウキヨ学院合同選抜大会で、優勝することじゃ!」
大会……? 嫌な記憶が。
「もちろん、トーラ! そのチームを率いるのはお主じゃからの?」
「…………え? ええええええ!?」
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