第16話 16歳の教員

「結局大会ってどうなったんだ? 全然新聞も取り上げなくなったけどよ」


「見てないのか? ほれ、朝出てた新聞」


 会計部の男の差し出した新聞には、デカデカとこう書かれていた。


『トロウキヨ大会 優勝 「聖剣の柄」キーラペア』


「なんだ、ダークホースは負けたのか?」


「いや、負けてねえ」


「どういうことだ? 負けてねえのになんで優勝がウチのキーラなんだよ?」


「この小さい見出し見てみろよ」


「「ダークホース理由不明の途中棄権……快勝を続けた二人に何が?」 まじ? 棄権したのか?」


「行ってた連中の話じゃ、第6回戦まで圧勝してたらしいぜ? 怪我一つせずに」


「おいおい……冗談きついぜ。Sランク相手に無傷だ? それもSSの域じゃねえかよ」


「そうだよな、キーラも無傷で優勝したって言ってたし」


 そんな会話の中、二人のもとにあの男が現れた。

 執行部のあの男だ。


「おう、新聞見たか? ダークホース危険したんだってな」


「そんなものはとうに知っている。もしSランクがこのギルドを抜ける場合、どれだけの損失になる?」


「急だな。いきなりなんだよ?」


「脱退届を出したSランクがいてな。良いから答えろ。魔法使いだ」


「Sランクが抜けるとなると、かなり痛いな。移籍じゃなくて脱退なのか?」


「ああ、脱退だ。もうどこにも所属する気はないらしい。しかもまだ若い」


「なんだそいつ? フリーの冒険者の実情知らねえんじゃねえのか? ギルド抜ければ、素材の取引もままならねえぞ? Sランクで名前が知れてるとはいえ、無所属は商人たちが相手にしたがらねえし」


「いや、そこについては知ってるはずだ。トロウキヨの生徒だからな」


「変な奴もいたもんだな。誰だよそいつ?」


「Sランク魔法使い、カミラ・ウィレーヌだ」






 今日は初めて教壇に立つ日だ。

 僕は、『魔法実技』という科目を受け持つこととなった。

 授業は、適当に僕の好きなことをやれと一任されたけど、経験皆無の田舎者に丸投げするのはいかがなものか。不安しかない。

 僕が本当にこんなエリートたちに教鞭を取ることなどできるのだろうか。


 受けた矢先、やめますなんていえないので、憂鬱な気分で廊下を歩いていくと、


「あ、師匠」


「あ、リン」


「……師匠!? なんでここに?!」


 改めて考えると、僕がここにいることがおかしいことに気づいたのだろう。

 手をわななかせてあたりを見渡していた。

 リンは、一人か。


「ここ、学院内ですよ……」


「不法侵入してるわけじゃないよ。ほら、これ見て」


 肩の紋章を見せる。

 これがこの学校の教員の証となるらしく、学長から常につけているよう言われている。


「!? ここで先生するんですか?!」


「そう、今から授業で、実技を担当するんだけど」


「えええええ!! じゃあ次、一緒じゃないですか!」


 教室に着くと、奥行きのある教室に百人以上の生徒がいた。

 物珍しそうに、新しくきた教員をまじまじと眺めている。


 うわ、緊張するな……


 リンが席につくと同時に、チャイムが鳴り、授業は始まった。


「今日から、魔法実技を担当することになった、トーラ・フロストだ」


 まずは舐められないようにしろと、学長から言われてる。

 これで大丈夫かな……?

 教壇に立っていると、いやでも全体が見える。

 リンが、虚勢を張る僕の方を見て、口元を緩ませていた。


 知り合いが緊張してるとこを見てニヤニヤするのはやめてほしい……。


「それじゃあ、まず魔法とは何か、」


「まずはさー、距離を縮めるべきなんじゃねえの?」


 一人の男子生徒が声をあげた。


「あぁ、確かに、そうだったな」


 態度がでかいな……お互い様か。


「質問があれば聞こう」


 すると、次々に手が上がった。

 右から順に当てていく。


「何歳ですか?」


「16だ」


「16?! 今16って言ったか?! 俺たちよりも年下じゃねえか!」「バカだな、冗談に決まってるだろ? 距離を縮めるための冗談だよあほ」「ほんと、バカだよなお前。16でこの学院の教師になれるかよ」


 教室がざわめくが、次の質問に答える。


「え、えと、なぜトロウキヨ学院に?」


「スカウトされた」


「……その前は何を?」


「『聖剣の柄』で冒険者をやっていた」


 そこで、すげーという声が上がるが、


「ランクはなんだったんですか?」


「ランクはCだ」


 そこで、今までで一番のどよめきが教室内に起こった。


「それはほんとですか?」


「約束しよう。何一つ嘘はついていない」


 すると、


「……ちげえ……俺は、こんな半端もんに授業をされるわけに、高い授業料を払ってるわけじゃねえ!!」「ふざけるなよ! この学院への冒涜だ!」


 教室中が非難の嵐となっった。

 しまった……これどうすれば……


「そんなに信じられないんならさあ、これから対戦してみればいいじゃん」


 そう声を発したのは、リンだった。

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