第15話 お誘い

 お詫び。

 前回の話で、オッドアイの新キャラ、カミラ・ウィレーヌは「Aランクの魔法使い」と言っており、ジョナサン、トーラは「Sランクの魔法使い」と言っておりましたが、


 カミラは『Sランクの魔法使い』です。


 混乱させてしまい申し訳ありません。

 修正しておきました。


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「お主、やはり賢者ではないのか?」


 日暮れの酒場。

 仕事終わりの冒険者らが、酒を煽り騒ぎあっていた。

 目の前には先日あったトロウキヨ学院の学院長。

 隣には、既に酔いがまわった様子のカミラがいた。


「賢者なんて知りません」


 マッドベアの肉を頬張りながら、キッパリとそういった。


 流石に可哀想だと、大会の後カミラに奢ってもらうことになったのだが、くる途中でばったりとこの人と出くわしたのだ。


「ほんとかの?」


 机の向かい側から、小さい手を台につき、僕の顔を覗き込んでくる。


 知らないものは知らない。そんな覗いても僕からは何も出ない。


「久しぶりですね〜学長〜相変わらずちっさーい」


「順調に出世しとるようじゃの、カミラや。あー疲れた疲れた。つい先日まで学院の試験があってのー」


 試験……そいう言えば、リンは無事に学年一位を取れたのだろうか?


「あの、リンはどうだったんですか?」


「おん、点数はまだでとらん。学年一位に実技は完敗じゃが、それでも多少は差は縮まっとるようじゃから、筆記の試験次第じゃな」


「学長〜、面白そうな話してますね〜まさか、実技だけで学年一位をキープし続けてるっていう話ですか〜?」


「そうじゃぞ」


「なんですと?」


 一気に酔いが覚めたように、カミラの顔が本気になった。


「魔法は得意でも、勉強嫌いのやつはたくさんおるでの、そういう生徒のために実技だけは上限なしにしておるんじゃが、筆記0点で学年一位をとってしもうた奴がおっての」


「既にSランク試験に合格しそうなレベルじゃないですか……」


「まあ、真面目にやればSSも夢じゃないはずじゃ。あやつには規格外という言葉がよく似合う。天才というもんは、初めから人智を越えとるもんじゃ」


 学長が再びこちらを向いた。


「お主なら、SSランク試験にすぐ合格できそうじゃが? その気はないのか?」


 簡単だのなんだのと言って、騙す気に違いない。

 甘い言葉は全て嘘。僕はそう学んだんだ。ここは断固たる姿勢で返事を。


「ありません。そもそも僕がなれるわけありませんし」


 すると、カミラは肉を頬張ったままの口を止め、学長はその丸い目を見開いて固まってしまった。


「お主、少し見ぬまに変わったか?」


「まあ、いろいろありましたから」


「そうか。なにがあったのじゃ?」


「大会の賞金をさっきちょろまかされたんですよ〜だから今日は私の奢りなんですっ!」


 僕が答えるより先に、カミラが答えた。


「なんじゃ、金に困っとるのか?」


 言って良いものだろうか、もし正直に話せば、相手に弱みを見せる事になる。それは決して得策とは言えないだろう。

 ならば、


「そうですよ〜! 師匠は今、無一文なんですっ!」


 ああ……言っちゃったよ。

 少し考える様子を見せたのち、学長は口元をニンマリと釣り上げて、不敵に笑ってみせた。


「そうかそうか。確かにのーギルドから追放されたとあっては、その日の銭を稼ぐのも一苦労じゃろう?」


 悪い顔だ。人の弱みに漬け込むような悪い顔。

 だが、確かにこの人が言うことは間違いじゃない。濡れ衣とは言っても追放された身、どれだけ弁明したところで世間からの目は当然、『規約違反でギルドから追放された魔法使い』だ。


「そう、ですが」


「だったら、うちで働くと言うのはどうじゃ? あーもちろん、給料は良いぞ? なんたって世界有数の育成学校なんじゃからな」


 ……願っても無い話………だが、ここで食いつくのはまた自分が惨めな思いをするだけだ。

 慎重にいこう。


「なんじゃ、乗り気じゃない顔じゃの? 何か他にやりたいことがあるのなら、非常勤という形でも良いが?」


 やりたいこと、まずはキーラに僕と同じ目にあってもらわなければならない。

 それから、あのギルドにも痛い目を見てもらおう。

 ろくに調べもせず、事情も聞かずに僕を追放者にしたんだ。


「学長〜師匠が先生になるなら私も!」


「なるのはいいが、お主はちゃんと試験を受けてからじゃぞ?」


「え?」


「当たり前じゃ。国の金で運営されとるんじゃからの。流石にお主程度の並の魔法使いを、ワシの権限でどうこうすると反発が起きるでの。して、どうじゃ? もし興味があれば、詳しい話を学院でしようではないか」





 という会話が昨日あり、次の日の朝。

 来てしまった。二度目のトロウキヨ魔導学院。


「来ると信じておったぞ!」


 満面の笑みで出迎えるのは、学長だ。

 促されて、学長室へと入った。


「まあ、まずは金に困っとるという話じゃったからの。金の話でもするかい」


 条件次第では、ここで必要なお金を稼ぎつつ、キーラたちに復讐する準備をしよう。


「給与形態は、週給制か、日給歩合制のどちらかが良いと思うんじゃが、どっちがよいかの?」


「すいません……その辺の話にはうとくて……」


 無知は罪……と、そこまでいかなくても、自分の知らない分野で話を進められるというのはなんだか、嫌だな。


「まあ、ざっくり言えば、働いた分だけ貰うか、決まった金額を後からまとめて払うかの二択じゃな」


「なるほど」


「損得鑑定でいくなら、決まった額を後からまとめてもらうほうが良いと思うぞ。いくら休んでも同じ給与が支給される」


「ほんとですか? それはいい」


「ほんとじゃ。まあ、好きに休ませる代わりと言ってはなんじゃが、ワシの研究にもつきおうてもらうがの」


「はあ……研究……」


「特典も色々あるぞい? まず、学食が無料じゃ」


 無料?! それは大きすぎる利点だ……。


「施設も使い放題、何かの研究をしたいと思えば、申請すれば給与とは別にお金もでる。あと、ちょっとだけ威張れる」


 最後のは良いとして……こんなに好条件な職場があるなんて。


「給与はどのくらいですか?」


「そうじゃのー、学長推薦じゃから多少無理は聞けるぞい? このくらいでじょうじゃ」


 学長は、小さな指を二本立てた。


「2000ガルド?」


「いやいや、200,000ガルドじゃ」


「!? 週給ですよね?! 本当ですか!?」


 冒険者年収の中央値が、約300,000ガルド。

 つまり、二週間働けばそれを軽く越えてしまうという金額だ……まるで世界が違う。


 この高水準の給料に加えて、しかも、食料の心配もいらない。

 こんな世界があっただなんて……。


「天下の学院をなめるでない。このくらい余裕じゃよ」


「受けます。その条件で、大丈夫です」


「そうかそうか、よかったぞ。これで魔導研究もはかどるわ!」


 そうして、僕は契約書にサインし、憧れていた世界一の学院に、生徒ではなく教員として入ることとなった。

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