第14話 裏切り
続く二回戦、三回戦、四回戦、圧勝。
僕たちは着実に順位を上げていた。
次勝てば賞金が手に入る。
「て、この人誰だ?」
「初めまして。先程トーラさんに弟子入りした、カミラ・ウィレーヌと申します」
「僕はまだ認めた覚えはないけど」
控え室にいたのは、二回戦まえに僕に弟子入りを申し込んだあのオッドアイの少女だった。
「やるじゃねえか。トーラよー」
ジョナサンが肩に腕を回そうとする。
僕はそれを弾いた。
「そういう仲じゃないですよね」
「す、すまねえ……」
「師匠……かっこいい……」
言葉巧みに僕を騙そうということか。
僕はもう騙されないぞ。
「あ、そういえば、自己紹介忘れてました。私、『聖剣の柄』所属のSランク魔法使いです。相方のオッドさんは今、治療室で療養中です」
「聖剣の柄!? Sランク?! 超エリートじゃねえか! トーラはランクCだぞ?!」
どういう意味なのかは聞いておかないでおこう。おおよそ、「こんなやつに本当に弟子入りすんのか? アホだなー」という意味だろうけど。
「いや、しかしよ、それなら多少の勝算はあったんじゃねえの? トーナメント表みらわかんだろうが、トーラはCで、俺はBな訳だし。流石にSランクの凄さは身に染みて知ってるよ」
「だからこそです」
すると、グッとこちらを見て、距離を詰めてきた。
すぐさま壁へと追いやられてしまう。
「お、おい……?」
「師匠、いや、トーラさん。あなた、試合中ずっとオッドさんに魔法をかけ続けてましたよね? パワー系なので他のSSと比べると遅いとはいえ、あんな無茶苦茶な速度で動き回るあのバケモノに」
今まで誰にも気づかれることはなかった戦闘中のサポート。
今、追い詰められた恐怖とともに、それを誰かに認められたという嬉しさが心を渦巻いていた。
この人……何者なんだ……?
「は?! そりゃほんとかよトーラ!」
「え、は、はい……流石にオッドさんは規格外すぎて、断念しましたが……」
「やっぱり。負けてまるまる二日も寝込むのはごめんですからね。私、合理的な人間ですから!」
あ、そう。
でも、本当にこの人は何者なんだ? 普通、魔法は顕現直前まで視覚的には捉えられない。
それに、僕が扱っていたのは必要最低限の範囲のみだ。
オーバー気味の魔法を使ったのもオッドに使った氷結魔法と、火炎と風の混合魔法のみ。
普通の人間にはそれしか目に見えてないはず。
「超気になるって顔ですね?」
蒼と紅の双眸が、上目気味に僕を見つめた。
「この眼です。実は私、魔力流れが見えるんですよ」
第五回戦。
対戦相手は両方ランクSの冒険者ペアだった。
「ここで勝てば、賞金獲得が確実になります。気合を入れていきましょう」
「おう!」
二人位置につく。
そして、戦いのゴングが鳴った。
先制を仕掛けて来たのは相手の方だった。
僕はいつも通り氷結魔法、そして、風魔法を行使して相手を弱体化させる。
ジョナサンは、鈍くなった相手の剣を完全に見切り、剣で受けた。
やはり、上位冒険者のように、回避しつつカウンターを食らわせるという戦術はジョナサンにはまだ難しいらしい。
もしその動きを見せれば、いつでも魔法でサポートに回るのに。
「クソが!!」
「もらった!」
横薙ぎ一閃。対戦相手の一人がステージから消える。
剣を弾いてからのカウンターは、ジョナサンも慣れた物である。
当然、切る際は攻撃が鋭くなるよう、地面とジョナサンの足は氷結魔法で固定させている。
そして、ジョナサンが前衛を倒した後にくるのが……
「烈火の炎よ、円球となりて敵を焼き尽くせ!」
無駄に長い詠唱を終わらせた後衛の魔法だ。
狙いは僕か。どちらに撃ったとしても結果は明白。
水魔法で火球を撃ち落とし、そしてジョナサンがとどめを刺した。
勝敗が喫した。
順調に勝ち進んでいるような体を呈した僕たちだったが、次回を突破した時点で、僕の魔力が底を尽きた。
よく持った方だと思う。
流石に第七回戦は、無理だと判断し、ジョナサンに伝えて棄権した。
「遅い……」
それで、魔力切れでグロッキーな僕の代わりにジョナサンが大会の賞金を受け取って来てやるといったので、頼んだのだが、数時間待っても一向に彼が現れる気配がなかった。
「あの前衛の男、遅いですね?」
僕の看病していてくれたカミラが、不思議な顔でそう漏らす。
「まさか……」
脳裏に嫌な記憶がよぎった。
キーラに銀行の金をちょろまかされたあの時の記憶。
くそ……失念してた。具合が悪くてすっかり警戒するのを忘れてた……。
「!? まだ寝てないと危ないですよ! 師匠は今、ほんとに魔力空っぽなんですから」
「………。それもそうか。僕の容態を見越して、何か買って来てくれてるのかもしれないし」
「六回戦見てヒヤヒヤしてたんですよ? ああ! 師匠の魔力が尽きちゃう! って」
「ありがとう」
さらに数時間が経った。
時計の針がもう午後七時を回っていた。
だが、とうとうジョナサンは戻ってこなかった。
僕は、また騙されたのだ。
あれだけ酷い思いをしておきながら、一度ならず、二度までも……。
僕の中で、何かが燃え上がるような感覚を覚えた。
軽い吐き気を催し、腹の底から湧き上がるようなこの感情……。
一番近い感情で言えば、これは
『復讐心』
だ。
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