第13話 調査結果

「おいおい……ありゃ、先日追放されたっていう、トーラ・フロストじゃねえか……?」


 執行部の男に指示され、大会に来ていた調査に来ていた男が何度も紙とステージを見比べる。

 二枚の調査書、一枚は大会の無名のダークホース用、そしてもう一方はトーラ・フロスト用の物であった。

 トーラ・フロスト用の方には、人相書きが記されている。

 特徴が、目の前で戦っている男と合致していた。


「賞金目当てで出てんじゃねえのか? それよりダークホース探せよ」


「お前、アホか。トーナメント表見てみろ」


 男が本戦の出場者が書かれた紙を差し出す。


「本戦の時点でAランク、Sランク、SSランクの冒険者しかいないはずなのに、あいつはなんでステージに立ってるんだよ」


「た……確かにそうだな……どれも冒険者家業やってるやつなら一度は聞いたことあるような有名人ばかりだ……」


「あの相方の方もおそらく無名の冒険者だ」


「トーラ・フロストって、確かCランクの魔法使いだろ……? つまりこれってよ……」


「ああ、うちの主力をのしたダークホースと、先日規律違反で追放されたトーラ・フロストが、同一人物ってことだ……」






「は? ダークホースとトーラ・フロストが同一人物だと?」


 ギルドの執行部。

 調査部の男たちが、まとめた報告書を持って帰ってきていた。


「ああ、確かに間違いねえ」


 言いながら、男がトーナメント表を差し出す。


「見てみろ。参加者全員のランクを調べて書き出してみた」


 Sや、Aがずらっと並ぶ中で、Bと、Cが各々一つずつ書かれていた。

 トーラと、ジョナサンのものだ。

 この二人以外に、本戦に出場できたAランク未満の冒険者はいなかった。


「ランクを見るに、間違いはないようだな。だが、あの時確かに強さは感じられなかったはず……」


「まあ、色々調べたことは書いといた。信じられねえと思うが、ちゃんと読めよ」


 執行部の男は、不穏な前置きに若干疑念を抱きつつも、感謝の辞を述べたのだった。





「…………」


 自室に持ち帰り、詳しく書類にい目を通していた。

 男は、そこでようやく理解した。

 調査員がなぜあんな前置きをしたのかを。


 だが、まだ信じるわけにはいかない。

 信じられるわけがなかった。


「して、なんのようじゃ? ギルドが学長を呼びつけるなど、このギルドも随分と偉くなったもんじゃの」


 来客用のソファに座った幼女が、肘掛けに小さい手をついて不機嫌そうにつぶやいた。


「ご足労いただきありがとうございます。それで、これをみて欲しいのですが」


「わしの魔導研究を中断する程の価値のある物じゃろうな?」


 言いながら紙を受け取ると、上から順に視線を走らせた。

 途中から、明らかに先程の不機嫌そうな顔ではなかった。


「魔法を連射……撃ち落とす……並行……無詠唱……確かにこれは、魔導研究を中断するに値するやもしれんな」


「それで、これは実際にあり得るのでしょうか……?」


「まあ、毎年主席は一発でAランク試験に合格する力を持っている。稀にSもおるがの。じゃが、そいつらでも実戦での魔法の並行行使は無理じゃ。魔法の連射といっても、実際は一つの魔法を小切れにして出すもの、つまり本来の意味での連射ではないのじゃ。もちろん一発の威力は落ちるわけじゃから、実戦じゃと使えたもんじゃない。無詠唱? これはそもそもできるやつが指を折るほどしかおらん。だから、相手の魔法を後出しでかき消すような真似はできんの。準備しておいて、相手が撃ってきたら放つというやり方ならできるが、そんなことをするより普通に撃った方が効率いい」


 男が感心するように頷く。


「要約すれば、マジモンのバケモノということじゃ」


「そ、そうですか……」


 幼女がソファからぴょいと飛び降りる。


「んじゃ、用は済んだ。帰るぞ」


 そして、ドアに手をかける寸前、


「こういう話を知っておるか? 古い言い伝えじゃが、その昔、とんでもない魔法の才能を持つ男がいた。魔法がまだ完全に定義されていなかった時代に、一人でこの現代魔法の基礎を作り上げたと言われておる。人はのちに其奴を『賢者』と呼んだ。じゃが、若くしてそやつは姿をくらましてもうたのじゃ。それから記録が残っとらんでの、じゃが、まだその賢者が生きておるというやつもおる」


「人間の寿命はおおよそ70年。流石にそれはファンタジーが過ぎるのでは?」


「そうおもうかえ? じゃがこれがありえぬ話でもない。賢者は自ら魔法を作り出し、重力すらも操ったという。さらに、ある地点から別の地点まで一瞬で移動したりだとかな」


「はい……」


「わしはまだ賢者が生きておると信じておる。じゃ、わしはそのバケモノを探しに行くとするわい」


 扉が閉まった後、男は大きくため息を吐いた。


「……まずいことになったな」

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