第12話 ギルド内部では

 世界一のギルド『聖剣の柄』の柱であるSSランクの連続敗退。

 それは世界の関心を集めるには、十分過ぎるインパクトであった。


 それを受け、ギルドの運営組織は荒れに荒れていた。


「新聞見たか?! ソレイドとオッドが無名のやつに負けたって!」


「これだろ?」


 会計部にて。

 一人の職員が持ち出した紙には、デカデカとこう書かれていた。


『トロウキヨ大会。無名のダークホース評価SS連続撃破』


「それだ! 相手は一体なにもんなんだよ?!」


「それが、記録がほとんどなくてな。」


 その時、扉が大きく開かれ、そこにあの男が現れた。

 トーラを突き飛ばし、追放を告げた理的な男である。


「おい、その新聞を見せろ」


「え? お、おう」


 奪い取るように新聞を手に取ったその男は、穴が開くほど鋭い視線で睨みつけた。


「……くそ、詳しく書いていないか。大会に職員を送ってこいつを調べ上げろ。異常事態だ。世界一と名高いこのギルドの最高戦力が、どこぞの馬の骨に敗れるなどあってはならないことだ!」


「ここ会計だぞ……? 会計の俺らにいうことじゃねえだろ」


「それもそうだな。会計に不穏な動きがあればすぐに知らせろ」


「おう。そういや、聞いたことあるか?」


「なんだ」


「このギルドで規約違反が出たらしいじゃねえか。なんて言ったか、サポート役の偽装? だったか?」


「そうだな」


「なんたってサポート役に偽装なんかしてたんだろうな?」


「知らん。何があろうとギルドの規約違反は重罪だ。看過できん」


「まあ、確かにな。サポート役を連れていかねえで怪我でもされたら、出費が痛いしな。会計としても見過ごせねえ。名前は確か……」


「トーラ・フロスト。Cランクの魔法使いだ」


「そう、そいつだよ。この話を聞いて気になっていたんだが、見てくれこれ」


 職員の一人が、山の中から数枚の紙を取り出し、差し出した。


「なんだこれは」


「過去五年間の遠征の実績だ」


 エリア別にまとめられたグラフだ。

 そこに、パーティー別の利益が棒グラフで示されており、一番上は、二番目を大きく離していた。


「やばいだろ? 十倍以上の差をつけてんだぜ」


「確かに凄まじいな……?!」


「気づいたか?」


「トーラ・フロスト……の名だと? これも、これも、これもこれもこれも……」


 次から次に捲られる紙の全てに、トーラ・フロストの名が載っていた。


「その話を聞いて、サポート役のふりして攻撃四人パーティーで行ってるならまあ、確かに討伐効率は上がるだろうなと少し思ったが、やはりこれはおかしい気がしてよ。たかが一人、しかもCの魔法使いが入ったくらいで倍以上も差付けられるか? 自画自賛するわけじゃねが、このギルドはかなり戦闘水準高いわけで、だからサポート一人入れても火力が安定するわけであって、」


「今回の遠征の分は」


「まだだが?」


「確か、奴は今回の遠征でSSのパーティーに入っていたはずだ。今すぐ精算しろ」


「はあ? 急ぎ手当出るんだろうな」


「チッ、今夜酒を奢ってやる」


「しゃーねーな。しばらく待ってろ」


 それから数十分たち、その場を離れた会計職員が慌てた様子で戻ってきた。


「お……おい!! やべえよ! 見ろこれ!! アイツらいっつも同じパーティー組んでるから比べやすかったんだが、前回の五倍以上稼いでやがる!」


「五倍だと……?!」


「ああ! しかも、他の項目も見てみろよ。その、トーラ? がいたとこのパーティーは誰一人として治療費が必要になるような怪我をしてねえんだよ! これはすげえことだぜ……何なんだこいつは?!」


「ギルドの規約を破った唯の罪人……とも言えなくなったな。収益をチョロまかした可能性は考えられないのか?」


「それはぜってえねえな。俺らの仕事を知ってるだろ」


「お前たちのせいで世界一金にうるさいギルドなどと不名誉な呼び方をされていたな」


「とにかくだ。どうやったのかは知らんが、過去約五年間、こいつはギルドにSランク以上の貢献をしている。名が売れてねえ分、SSには劣るが、だが、金銭的な価値で言えば確実にトーラってやつの方が上だ!」


「だからと言って、規約を破っていい理由にはならん」


「まあ確かにな、真似して怪我人が増えられると出費がかさむし。でも、こいつは特例で許してやってもいいだろ!? 十倍だぞ?! 今どこにいるんだ!? 今すぐにでも引き戻すべきだ!」


「…………。まあいい。大会の調査と、トーラ・フロストの調査、早急に進めるよう、調査部に依頼しておく」


 何かを思い出したように、会計の職員は口を挟んだ。


「つか、やべえ。ここ数年の成長率を見越して、莫大な金を設備費や、ギルドの拡大に投資してきた」


「普通のことだろう。なぜそんなに深刻そうな顔をしている」


「いや、もしこれまで出した成長率が、そいつ一人によるものだとすれば……このままなら投資のリターンより先に……このギルドの体力が尽きる可能性がある……」


「は? 世界一のギルド『聖剣の柄』がが体力切れだと? どういうわけか説明しろ。資本金はあるはずだ」


「先十数年を見越した投資なんだよ……成長率と折り合いをつけてギリギリ耐え切れるレベルだ。そこから先、投資以上の莫大な利益が入ると見込んでな……」


「……つまり、」


「ああ。最悪、このギルドは……破産する……」

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