第11話 オッドアイの少女

「今の……見間違いじゃねえよな……」「どんな魔力回路してたら、あんな大規模な魔法出せるんだよ!? しかもただの火炎魔法じゃなかったよな?!」「ち、違いねえ……あれはただの火炎魔法じゃない……」


 放った魔法がステージに消えたあと、オッドの姿は既になかった。


「よくわかんねえが……かったのか?!」


「あとは任せました……」


 上手くいったけど、もう魔力がほとんど空だ。オッドは倒したし、あとはあの魔法使いだけど……ジョナサン一人で勝てるはず。


 だが、


「あの……すいません。棄権します」


 オッドの後衛は、控えめに手を挙げると、首を縮めてそういった。


「は……?」


 気合を入れ直していたジョナサンも、呆気に取られて口を開ける。

 ついで、同じく呆気に取られていた司会が声を張り上げた。


「し、勝者! ジョナサン・ビッチ/トーラ・フロスト!!」


「すげええ!! また勝っちまったぞあの無名の二人!!」「優勝あり得るんじゃねえか!?」「もしかしたらあるかもしんねえ! 俺はあいつらが優勝するに10,000ガルド賭けるぜ!」「なら俺は30,000ガルドだ!」


 あ……え? 勝っちゃった……?




 試合も終わって、控え室に戻ってきた。


「すごかったな! あの魔法!」


 また、必要以上に持ち上げて、僕を騙そうとしている。

 控え室には、ソファと椅子が置いてあり、ジョナサンはソファに座っていた。


「それより、次の対戦相手ですけど」


「どっちになるだろうな? どっちも有名ギルドの人間だぜ」


「僕はその辺詳しくないので、」


「こいつらの試合は、次か、見に行かねえか? 研究も兼ねて」


 確かに、研究は必要……でも、それ以上にまずは魔力の回復が先だ。

 遠征から帰ってきてヘトヘトのところに、追放されて、それからまともに食べたのは学院での昼飯とジョナサンに奢ってもらった時くらい。

 流石に、これから連戦となるとかなりきついな……。


 ジョナサンの誘いを断ると、ジョナサンは僕の状態に気づいたのか、「俺が代わりに研究してくるから、しっかり休んどいてくれよ」と部屋を出て行った。


 椅子に体重を預け、全身脱力する。


 入賞賞金1,000ガルド。


 本戦はトーナメント形式で行われる。優勝するには、本戦出場者が約1,000人いるので、十回ほど勝たないといけない。五回勝てば入賞で、その時点で1,000ガルドが確定する。


 それから一勝重ねるごとに、


 6勝5,000ガルド


 7勝10,000ガルド


 8勝50,000ガルド


 9勝500,000ガルド


 優勝10,000,000ガルド


 と増えていく。冒険者の年収の中央値が約300,000ガルドなので、結構な金額であることには違いない。


 ちなみに平均値はこれよりかなり高く出るらしいが、一部のトップランカーが釣り上げているだけであまり当てにならないので、中央値を基準としていると誰かに教わった。


「優勝賞金一千万ガルド……」


 世界一大きな都市が主催しているとだけあって、かなり太っ腹な数字だ。

 僕の貯金してきた額と負けず劣らずの良い勝負である。


 評価Cの普通の冒険者だったが、やはり世界一のギルドともあり、冒険者の中央値を大幅に超える給与を貰っていた。それに加えて、遠征ボーナスや、その他の賞与もたびたび発生するため、給与は額面より多かった。


「ふぅ」


 深く呼吸をする。精神統一をして、少しでも空気中の魔力を取り込みやすくするのだ。

 魔力の回復方法は大きく分けて二つある。

 一つは、魔力を体内で生成する方法。これは食事なんかをきちんととっていれば、自然と行われる自然回復と呼ばれているものだ。


 もう一つは、空気中や、他の物体から取り込む方法。これが能動的回復。


 ただ、これは慣れていないとかなり大変だしめんどくさい。それに、自然回復と比べるとかなり遅いのだ。

 空気中の魔力はそれほど多くない。それにこの会場はほとんど全ての魔力が動力源に変換されているようで、さらに魔力は少なかった。


 外から歓声が聞こえてきた。

 ようやく始まったらしい。この試合の勝者が次の僕たちの相手となるのだ。

 誰が来ようと、することは決まってる。僕はいつものように相手をとことん弱体化させて戦うだけ。


 僕は特別魔法の威力が強い方ではなかった。平均値かそれよりちょっと強いくらい。

 じゃあなぜ神童って呼ばれてたのかっていうと、僕が魔法を手足のように使えたからだ。


 例えば火球の連射。

 それまで村では、精度を保つには一秒に一発が限界だったのだが、僕はそれを一秒間に十発も打ててしまった。


 同時に魔法を操るなんてのも、朝飯前だった。


 これが僕が神童と言われた理由だ。


 僕には歳の近い女の子の幼馴染がいた。

 活発な子で、引っ込み思案だった僕を外に出してくれたのは彼女だ。

 僕が村を出ることになった時、彼女だけずっと嫌だ嫌だと泣いていた。

 懐かしいな……リャリャーシャは元気にしてるかな。


 と、物思いにふけっていると、突然ドアが開かれた。


「あの!!」


 目をやると、そこには、先程の対戦相手、オッドの後衛をしていたあの魔法使いの女の子が立っていた。

 左右で色の違う瞳に、カールした銀色の細髪、小さな顔に、やや控えめな鼻と口が乗っていた。


「……はい?」


「私の師匠になってください!」

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