第10話 悪手

「なんだよ。あのジョナサンってやつ。防戦一方じゃねえか? グループ予選を剣聖倒して一勝通過してきたって聞いたから期待してたが、飛んだ期待外れだな」「だな。まぐれじゃねえのか? やっぱ号外が盛り上げるために盛ってたんだな」「いや、凄かったんだって! 剣聖相手には圧倒してたんだぜ? 今回のは相手が悪いんだろ……相手は冒険者一のパワーなんて囁かれるあのオッド・スライだぞ」「飛んだ期待外れだ!」


 そうやじが飛ぶ中、本戦用の巨大なステージで、激しい戦いが行われていた。


「くっ……これが評価SSか……」


 片膝ついたジョナサンが、そう呟く。

 試合が始まって数分が経っていたが、オッドにはかすり傷ひとつ負わせることができていなかった。


 やっぱり、あのパワーを障壁魔法でいなすのはかなり苦だな……。それに、あの人はまだ本気を出していない……本気を出されると僕の障壁魔法で保護したとしても、ジョナサンがまともに喰らえば一発退場すらあり得る。


 後ろの魔法使いは何もしてないみたい。


「ジョナサンさん! 一旦立て直しましょう」


「お、おう!」


「流石にあの攻撃を喰らえば、一発退場すらあり得ます。なので僕の魔法主体でいきましょう」


 オッドの優れた点はその並外れた破壊力だけではない。彼は頭も切れるのだ。

 常に冷静で戦況を見極め、力を使う。


 僕に課された仕事は、オッドをこちらに近づかせないこと。


「了解だ! 俺はどうする?!」


「何もしなくて大丈夫です!」


「研究しておいてよかったでござる。ずっと違和感があったのでござるよ。トーラどのとご一緒した遠征での出来事。明らかに魔物が弱体化していたでござる。そして、予選初戦のソレイドどのの明らかな不調。そして、今回なかなかパワーが出しづらい自分の不調。トーラどの。原因はお主だったのでござるな」


「はい、そうですが」


「どうやったかはわからぬが、それがわかった以上、手加減は出来ぬでござる」


 いきなり本気を出すのか!?

 オッドの周囲の空気が明らかに変わった。重たい雰囲気がステージを飲み込む。


「足元をすくわれる前に、倒しておくでござる。よーい、ドッ?! おっと」


 僕が放った火球を、クラウチングしていたオッドは慌てて避けた。

 そう発言されては、こちらも出し惜しみしてはいられない。

 連日続く試合のために、魔力を温存しておきたかったが、だしみ惜しみすると負けてしまうかもしれない。


「お……おい、今、いつ魔法打った……?」「わかんねえ……意味がわかんねえ……なんなんだよ、発動瞬間が目に見えないって……」「魔法使い以外の連中は、ジョナサンがダークホースだと言ってるが……今大会の本当のバケモンはアイツだよ……」「違いねえ……」


「後衛職が先手を打つとは、笑えぬミステイクでござるな。魔法を使えば次の魔法を使うまでに時間が生まれるでござる。もらった。よーい、どっ………?!」


 オッドは再び火球を避けると、信じられないという顔で僕の方を見た。


「はあああ?! いま、タメなしで魔法使ったよな!? ほんとあいつ誰だよ!?」「お、俺、し、知ってるぜ……あいつは『聖剣の柄』に居たんだよ……」「そうなのか?! そりゃ強いわけだ……だが名前なんて聞いたことないぞ!」「そりゃそうだ……だってあいつは……評価Cで、先日辞めるまではずっとサポート役をやってたんだからな……」


「な、なぜ……すぐに魔法が使えるでござる!?」


「僕は都会に出てたくさん騙されてきました。確かに騙した人が悪いことはわかってます。でも、全て僕の無知が招いたことです。僕はもう、そんな戯言には騙されない」


「何を言ってるでござる……?」


「騙そうったってもう騙されませんよ! 魔法にタイムラグなんて存在しない! はあああ!」


 次々に火球を打ち出す。流石にオッドも避けようとするが、僕の魔法がそれを許さない。


 足を凍結させてもパワーで破壊されるのは目に見えているので、ステージを凍らせた。足を取られて転倒するが、オッドも地面を叩いて上空に逃げる。


「おいおいおい……マジでやべえよ……あの魔法連射に、あの精度に、加えて氷結魔法の同時発動だぜ……。足取られて出鱈目な回避する破壊神もやべえが、やっぱあいつが一番やべえよ……」「ほんとにあいつCランクなのか?! まるで自分の手足のように魔法使うやつなんて魔導学院にも居なかったぞ!?」「『聖剣の柄』はなんだってあんなバケモンをクビにしたんだ?!」


 なんて馬鹿げた回避術なんだ……。


「でも、空中に逃げるのは悪手としか言えない」


 杖の先で淡赤色と、淡緑色が混ざり合う。


「融合魔法……ヘル・ニグル・ゲージ獄炎の鳥籠


 次の瞬間、荒れ狂う炎の嵐が、空中に逃げたオッドの全身を包んだ。

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