第7話 初戦
「おい、あれみろよ」「あいつこの大会参加すんのかよ!」「笑えるわ、あいつ対して強くもねーくせに賞金ゲットするためだとかほざいてたぜ」「マジか? あいつわかってんのか? 賞金は上位入賞しねえともらえねえんだぞ。この大会は『聖剣の柄』のランカーたちも暇潰しに出るらしいし? 無理だろ」「てか、あんな奴と組むとか! 飛んだ物好きもいたもんだな! よかったじゃねえか! ギャハハ!」「あいつ、毎晩森でパートナーになってくれそうなやつ探してたっぽいしな」
大会当日。
参加受付の長蛇の列に、僕とジョナサンは並んでいた。
周りの会話を聞くに、このダンディな男、ジョナサンも相当苦労してきているようだ。
別に、深くは聞かない。僕だって同じような扱いを「聖剣の柄」でされてきた。
だからこそ、そういう扱いを受ける人間の気持ちもわかる。
「聞いてたか……?」
「え、あはい……」
「そうか、すまねえ。実はあんたがマッドベアと対峙した時からずっと見てたんだ。」
申し訳なさなど、かけらもない、開き直ったような凛とした表情だった。
……また、僕は騙されたのか。
「騙すような真似して悪い。だが、俺も金が必要なんだ。この大会が終わるまでは仲間でいてくれよ」
まあ、僕としても、騙されたとはいえ、むしろいい情報をもらったのだから、断る理由はない。しかも前衛後衛がセットでないと出れない大会なのだ。
僕だって、賞金目前で参加を辞退するほど先を見れない人間ではない。
「お金が必要なのは僕も同じです。頑張りましょう」
そんなに会話があるわけでもなく、しばらくして受付が終わった。僕はお金を持ってないので参加金はジョナサン持ち。
そして、対戦表が公開されたのだが……。
「う、嘘だろ……よりによって一回戦で……あの『聖剣の柄』のランカーと当たるなんて……」
僕たちの名前の横にあるのは、『ソレイド・アレクサー/ミル・ヘンダー』と言う名前だった。
そう、僕が数日前まで所属していたギルド、『聖剣の柄』のトップランカーである。
前衛と後衛がいないと参加できないという大会だから、おそらくミル・ヘンダーは魔法使い。それかバッファーだろう。
「運よく勝ち進んで、入賞狙いだったのに……」
さすがはランカーだ。ジョナサンは名前を見てすでに戦意を喪失していた。
そして、迎えた初戦。
大歓声の中、僕たちはバトルステージへと登った。
司会の人が、僕たちの紹介をして、爆笑が巻き起こった後、挨拶が行われる。
「よお、まさか一発目でお前と当たるとはなあ」
ソレイドが、邪悪な笑みを浮かべて僕を見る。
ここで弱気を見せてはダメだ。
「お久しぶりです」
「安心しろよ。死にはしねえからよ。まあただ、死ぬほど痛い思いはするだろうけどな!」
ジョナサンは相変わらず固まったままだった。
相手は杖を持っているとこからして、魔法使いで間違いない。
「へえ、キミ、ランクは?」
同じくニヤニヤと嘲笑混じりにそう言う。
僕も強気で返してやった。
「Cですが」
「なるほどー、俺はBだから、少しは加減してあげるよ」
挨拶が終わると、離れて立ち位置に立った。
「ルールは簡単! 相手を先頭不能にすれば勝ち! この空間には、特殊な魔法を張ってあり、致死量を超えたダメージは空間に反映されたのち、動力源に変換されるので、思う存分全力で戦ってください! なお、戦闘不能に陥った場合は、すぐに場外に飛ばされますので、ご安心して相手を殺す気で戦っていただいて大丈夫です! いよいよ始まります、世界屈指のランカー、ソレイド・アレクサーの一戦です!!」
司会が会場を盛り上げる。
正直、このルールは助かった。
「お……おい……ほんとに危険しなくて大丈夫だったのかよ……ここでまけると二日は起き上がれねえんだぞ……」
「ジョナサンさん」
「お……おう」
「ゴブリンを相手にするつもりで、いつも通り戦ってください。僕がサポートします。この勝負、勝ちに行きますよ」
驚いた顔をしていたジョナサンが、覚悟を決めたように笑ったと同時に、戦いのゴングが鳴った。
「先に邪魔者を倒して、後からじっくり痛ぶってやるぜええ!!」
先に動いたのはソレイドの方だった。
相手は評価SSの冒険者だが、来るとわかっていて攻撃を食らうような僕ではない。
「来ましたよ! ジョナサンさん! リラックスして戦ってください!」
「相手はゴブリン……相手はゴブリン……はああ!!」
「ふっ、黙ってれば楽に負けさせてやったのにな! 剣が狂うかもしれね、」
ガキン!
「……は?」
衝突した二つの剣、キーンと甲高い金属音こだまする。
先程まで盛っていた会場は静まり返る。
そして、会場には先程までの嘲笑とは明らかに違うどよめきが起こっていた。
「「「お……おい、SSとBが……剣を交わした……だと?!」」」
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