第9話 静かな朝に愛央がしたいこと

翌日の朝はかなり静かだった。愛央は相変わらずだが、俺は無口だった。あいちゃんも黙ってしまっている。


あお「たっくん、だいじょうぶ?」

たく「あぁ、昨日のやつでな」

あお「そっか・・・元気だして♪」


俺は結構引きずることが多い。だから、何か嫌なことがあると黙ってしまう。そんな俺を見かねた愛央は、とある行動をとった。


今日は学校が休み。実は毎年、入学式後最初の火曜日は休みなのだ。だから、ゆっくり朝ごはんを食べようと思った。愛央は朝ごはんを食べたあとに部屋に行き、ポンポンを持って戻ってきた。



・・・髪型も服も全部変えて。



毎朝恒例のチアリーディングを今日もやるんだろうと思っていたら愛央が全然違ったことを言ってきた。


あお「たっくん!外行くよ!」

たく「はぁ!?」

あお「いいから!はやくっ!」


珍しく俺を強引に外へ連れ出した愛央ははちまきを頭に巻いて、近くの公園へ連れていった。


あお「たっくんが元気ないから、広いところで応援したくなっちゃって!」

たく「運動会じゃねぇのに、外来んのか?」

あお「広いところだと、あいちゃんも遊べるでしょ?」

たく「だから来たの?」

あお「うん!」


そして愛央はチアユニを着たまま、ポンポンを持って俺のところに来た。や、やめろ。何をする気だ。と思っていたが愛央は少し笑って、俺に言った。


あお「たくみんなら、なんでもできるっ♪フレー!フレー!たーくーみーんっ♪」


こうやって言って、キラキラの笑顔でポンポンを振った。珍しくて久しぶり。愛央がたっくんって呼ばなくてたくみんって呼んだ。2年振りにたくみんって呼んだ愛央には特別な思いがあるのだろう。

そして愛央はこう言った。


あお「愛央がチアを習い始めた時、たっくんはどんなときも、愛央に向いてるって言ってくれたでしょ?愛央、たっくんの言葉のおかげで自信をもってチアダンス踊れたの!今度は愛央が、たっくんに自信を与えたい!」


静まり返った俺に火が点いた瞬間だ。こんな可愛くて、兄想いの愛央が本気で応援したい人はやっぱり俺だけだったのだろう。そして、愛央は胸の前でポンポンを振りながら言った。


あお「たっくん、GO!FIGHT!WIN!Fooooo〜」


顔の近くで応援するのは禁断だが、うちの愛央だから出来ることだった。そしてベンチに座り、あいちゃんが砂場であそび始めた。


あい「あいたんおちろちゅくる!」

たく「お城作るの!?」

あお「あいちゃん、頑張れ〜!フレ!フレ!あいちゃん!フレ!フレ!あいちゃん!ふぁいと〜、おー!Fooooo〜!」


愛央のチアは昔から可愛いと評判だが、今日の愛央はいつも以上に可愛かった。作り終わったあいちゃんは大喜びして、愛央にだっこをしてもらっていた。お城を作れたあいちゃんは、愛央の横にいた。

愛央がポンポンを振って輝かせているから。


赤いチェックのプリーツスカートと白いノースリーブのブラウス。そして青いポンポンを振って応援した愛央は満足した様子だった。

15分後、家に帰ってきた俺らは、すぐさま愛央がチアを踊り始めた。脚を上げて踊るラインダンスの練習なのかな?ひたすら愛央が脚を上げたり、ポンポンをもって練習をしている。愛央と生活して15年、愛央に応援され続けて10年が経つが、1番可愛くなるのはこのラインダンスを踊る愛央だと思う。

スカートの揺れ方が非常に可愛く、さらに可愛く見えるからだ。そして疲れた愛央は、俺に


あお「今度また、どこか行こうね!」


って言った。愛央、ありがとっ。ゆっくり休んでね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る