第7話 学年レクのチアリーダー
2日後の月曜日。時刻は朝7時。愛央がチアをやっているときだった。私立方南高校の1学年主任から俺の携帯に電話が来たのだ。
たく「はい、琴乃匠です」
学主「おはよう。琴乃君」
たく「おはようございますどうされましたか」
学主「今日、学年レクをやることになってな」
たく「はい」
学主「学年の生徒240人いる中で君が唯一、発達障害を持つ生徒でな、我々はどうしたら良いのかと電話したんだ。愛央さんと君は双子だから」
たく「あぁ、そうなんですか。僕、勝ち負けにこだわったりノートが書けなかったり色々あるんですけど」
学主「分かった。愛央さんと今日早めに来てくれるか?1年E組で待ってるから」
たく「かしこまりました。このあとすぐ向かいます。失礼します」
あお「たっくん、どうしたの?」
たく「学年主任に呼び出された。愛央、あいちゃん、すぐ行くぞ。今から」
あい「あい!」
あお「たっくん!待ってよ〜!」
俺は正直驚いた。学年主任から電話が来るなんてこと自体が初めてだ。プリーツスカートに着替えた愛央と一緒に俺らは家を出た。あいちゃんをおんぶして出かけたので、正直あいちゃんが泣きそうかと少々不安になっていた。
今日からのあいちゃんは全然違った。
去年まではぐずって「やーだー!うわぁぁぁあん」って泣いていたうちの愛華ことあいちゃんは、今年になって「あいたん、にーにーとねーねー待ってる!ぎゅー」って言い出したのだ。
俺と愛央は高校に通い始めたので、2人でぎゅーしてから高校に行き始めたのだ。そしてそれが初日だったのだ。
あい「あいたん、にーにーとねーねーまちゅ!ぎゅー」
あお「かわいい〜!あおねーねー、頑張るね!」
たく「あいちゃんいい子にしてるんだよ」
あい「あい!」
たく「じゃあね。先生、今日もよろしくお願いします」
あお「行ってきまーす!」
先生「いってらっしゃい!」
あい「ばいばーい!」
大喜びのあいちゃんを送り出して、俺らは高校へ行く。そして高校に着いたら学年室に即向かうのだ。
たく「失礼します。1年E組の琴乃匠です。学年主任の先生はいらっしゃいますか」
学主「待っていたよ。入りなさい」
たく「失礼します」
たく「それで、何を話せばよろしいのでしょうか?」
学主「俺ら先生が知っておいた方が良いことを教えてくれ」
たく「そうだなぁ・・・まずは、8秒待ってほしいんですよ。僕がもし怒ってしまった場合」
学主「それは何故なんだ?」
たく「ある程度の怒りが収まるのが8秒なんです」
学主「あとは?」
たく「週に1回でいいので、カウンセリングの時間があると助かります」
学主「分かった。今日の学年レクは参加するか?」
たく「はい。何せ、双子の妹愛央がチアをやるってことで、楽しみなんです」
学主「分かった。ありがとう」
愛央は俺が学年主任と話している間、教室で練習していた。学年レクで披露する応援の練習をひたすら。
あお「フレ!フレ!方南!フレ!フレ!1年!わ〜!ふふっ。いい感じかも」
たく「ちっす。待たせた」
あお「たっく〜ん!ぎゅー♡」
たく「ただいま。あじょうだ?上手くいってる?」
あお「うん!」
結構頻発する俺の方言。あじょうだとはどう?って意味である。それでも愛央は上手く行っていたようだ。良かった良かった。
学年レクはドッヂボール。愛央達女子は全員チアリーダー。つまり俺のクラスは愛央含め24人でE組を応援することになった。その中のリーダーがうちの愛央だ。すごいなぁ。
E組の男子は16人。対するF組は男子28人。
数の差では圧倒的にこちらが不利。でも愛央は俺にこう言った。
あお「愛央達女子は全力でたっくん達男子のこと応援するからね!」
愛央(たち)の期待を裏切るわけには行かない。俺らは気合いを入れた。試合は7分の体力勝負。試合開始のブザーがなった。
愛央たち女子の声援とF組女子の声援の大きさは全然違った。そらそうだ。相手は12人の声援に対しこっちは倍の24人。差は歴然だ。
7分後、俺らの試合は終わった。結果は惨敗。
全員当たってしまった。俺はかなりイライラしたが、我慢しないといけないと思い我慢をした。今日の授業はこれだけ。やることは残り1つ。あいちゃんの迎えに行くことだ。ただ俺は今その気になれない。教室に戻ると、愛央が待っていた。
あお「おつかれさまっ。負けちゃったね。あいちゃん迎えに行かなくていいから、帰って休む?」
いつもの愛央と同じ優しさの中に何か俺の情けなさを感じた。俺はこう返した。
たく「ごめんね、愛央。俺ら勝てなくて。あいちゃん迎えに行って、家帰ろさ」
あお「うん・・・」
情けない。負けてキレるはずの俺がキレなくて、愛央が心配しているなんて。
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