第2話 入学式

懐中時計の針は午前9時30分、初めてのホームルームが始まった。

担任は女の先生。どことなく相談しやすそうな先生と感じた。


先生「今日から1年E組の担任をします波野はのといいます。よろしくおねがいします。」


波野先生か。なんか相談しやすそうだなぁって思っていた。そらそうだ。俺のような人間、何が起こるか分からないから。


先生「では、琴乃くん」

たく「あっ、はい!」

先生「それから愛央さん」

あお「愛央も!?」

たく「俺たち、いきなりあじしたんですか?」


驚きすぎて方言が出てしまった。あじしたとは、千葉県の房州弁で、どうしたって意味である。


先生「君たち2人のどちらかに、誓いの言葉を言ってほしいの。あなた達、双子で特待生だから」

あお「たっくん、いい機会じゃない?」

たく「はぁ?無理無理無理」

先生「先生たちはね、どちらでもいいと思うの」

あお「フレ!フレ!たっくん!絶対できる!ふぁいと!」

たく「したがねぇ、私やります」


愛央は決まらないとき、俺のことを必ず応援する。これで俺が言うことになったが、恥ずかしいことにクラスは男子16人に対し女子24人である。愛央と俺は理論値上どこの席でも前と後ろに出来るが、それ以外の人から見たら俺らはカップルと見られてもおかしくはないのだ。だから恥ずかしい。


懐中時計の針は9時50分を指している。体育館前で待つが、愛央は緊張しているようだ。愛央はこれまであまり人前に出たことがなく、このときばかりは毎年緊張するようだ。


あお「たっくん・・・愛央緊張してきたよ」

たく「手握ってあげるから、一緒に入ろ?」

あお「うん!」


午前9時55分26秒、俺らは2人で入った。とりあえず順調とは思っていたがこのときの俺の心拍数は120を超えていた。2人揃って緊張しているのである。今日は残念ながら俺と愛央の父親しか来なかったが、今度は母親にもその姿を見せてあげたい。


司会「新入生誓いの言葉」

あお「がんばれっ、たっくん」

たく「うん」


たく「私ども新入生は、高校生に求められる、勉学に励み、秩序ある行動を取り、地域や社会に出ても立派な態度で方南生として生活することを誓います」


はっずかしすぎるわいくらなんでも。でも拍手がやまない。特待生ならではの特権なのだろうか。その後も式は順調に進み、教室に帰ってきた。


あお「たっくん、すごかったよ!」

たく「いや下手くそすぎるでしょ」

あお「愛央固まっちゃうよあそこに行ったら」

たく「そう考えると良かったのか?」

あお「うん!」


このとき俺の懐中時計の針は午前11時。あいちゃんを迎えに行くのは12時30分だから、早く終えて遊びに行きたいのだ。周りは緊張している中で話が出来るのは、さすが双子だなぁと今思っている。


大量の文書が配られ、1日目の学校が終わった。愛央はすかさず、俺の方を向いて


あお「たっくん!あいちゃんのこと、迎えに行こ!」

たく「やっべーすっかり忘れてた」

あお「今から行っても間に合うよ!行こっ!」


いつの間にハーフアップをポニーテールに直したんだと疑問は残るものの、愛央は教室を出ていった。


11時20分。保育園についた。


先生「あら、もう終わったの?」

たく「あー僕ら今日入学式だったもので」

先生「そうだったんだ。あいちゃん呼んでくるね」

たく「お願いします」

あい「ぎゅー」

たく「ただいま。楽しかった?」

あい「うん!」


実は愛華、産まれたときから羽が生えており、空を飛べたり、片言だけど喋れたりできるすごい赤ちゃんだったのだ。


あい「あしょんで〜」

あお「遊ぼっ!たっくん!」

たく「俺腹減ったんだけど」

あお「10分だけ!」

たく「はぁ仕方ない、いいよ」

あい「ぎゅー」


10分後、遊び尽くして寝ちゃっているあいちゃんをだっこして保育園から帰る。高校までは徒歩15分なので、比較的近いところに親の会社兼俺らの家があるって感じだ。


家に着いて制服から着替えた時、愛央は朝とはまた少し違っていた。同じ服でも何かが違う。俺は愛央に聞いてみた。


たく「愛央、何してるの?」

あお「チアの練習!たっくんに頑張ってほしいから!」


家に帰ってきたら欠かさずチアの練習をやる愛央を見ながら、俺はあいちゃんと遊ぶことにしたのだ。

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