孤高の剣士クライメシアは見守りたい。~ということで私はクライメシアと一緒に成り上がりギルドライフを始めます。……ところで彼女の瞳がこんなにも優しいのはどうしてだろう?~
第26話 フェローチェ・パーティーの失墜
第26話 フェローチェ・パーティーの失墜
次の日の朝、クエストを受けにヴァレリィと外へ出る。
クライメシアはもうお決まりでアンネリーゼの影に。
手紙のことは彼女から聞いた。
アンチギルドという、ギルドという体制に対して不満や憎しみを持つ者のひとり。
徒党を組む者もいれば一匹狼も存在し、けして一枚岩ではない。
まさか自分を狙ってきた大男がそんな存在とは思わなかった。
(アイツ、私のこと知ってるみたいだった……でもアンチギルドに知り合いなんていないはず)
隣でリンゴにかじりつきながらまだ眠そうにしているヴァレリィをよそに、顎に指を当てて考えるアンネリーゼだったが、すぐに別の話題で集中が途切れることになる。
「おいおい聞いたかよ。フェローチェ・パーティーのこと」
「うん聞いた聞いた。あそこ前からヤバいと思ってたけどねぇ。こういうことってあるんだねぇ。怖い怖い」
「いやいや、俺はいつかこういうことが起きると思ってたね。ワンマンクソヤロウのフェローチェめ。ざまぁみやがれってんだ」
どこかのギルドパーティーのメンバーが酒場で話し合っているのを小耳に挟んだ。
だがそれだけには留まらなかった。
「おい、フェローチェ・パーティーって確かお前がいたところだよな? なんかあったのかぁ?」
「さぁ。色んなギルドパーティーから恨まれたりするのはよくあったけど……でも、今日はなんか様子がおかしい」
「へっ、恨まれすぎてとうとう組織運営がおかしくなったんじゃねぇか?」
「それはないと思うけど……」
気になったふたりは、その辺を歩いていたどこかのギルドパーティーの人たちに聞いてみた。
「新人が、金庫のお金を持ち逃げ……? 嘘でしょ」
「ガハハハハハ! だっせぇ!」
「俺もさっき噂を聞いたばっかだからなぁ。だが信憑性は高いっぽいんだ。フェローチェ・パーティーのアジトからフェローチェの怒鳴り声と大勢が出かけていく姿を目撃したって証言があるらしいんだからよ」
「ねぇ、アナタってフェローチェのとこいた娘でしょ? なにか聞いてないの?」
「いや……私も初耳で」
「そう……。ま、アタイらみたいな貧乏ギルドパーティーからしたら、アイツは鼻持ちならない奴だったからね。久々に胸がスカッとしたよ。ほいじゃね」
目撃証言によって噂は広まったようで、今となってはこの業界内では有名になっているらしい。
「様子を見る限りデマってわけでもなさそうだな」
「でも、これだけじゃわからないよ。……私が追い出されたあとに一体なにが起こったんだろう」
フェローチェの不運は内心喜ばしいものだったが、それ以上に疑問がよぎった。
その疑問を解消するため、こういった噂話に詳しい人物の元へ行くことにする。
寄り道ではない。
その人物はギルドに勤務しているのだから。
「────……というわけなんですシャチハタさん。クエスト受注前に聞く話じゃないと思うんですけど」
「ええよ」
「いいのかよ!?」
「これもコミュニケーションの一環や。大丈夫やて。……ええか、この情報を流してきたんは"オコボレ"で食いつないでる奴や」
「オコボレって……まさか」
「おい、オコボレってなんだよ」
「あぁ、お前さんは知らなんだな。前に1番端っこのところ云々で気になってたやろ。あそこは大抵実力もなしにギルドパーティー追い出されたり、身体を壊したりして動けんくなった奴が行く最後の砦や。ほかのギルドパーティーのクエストに雑用として参加して報酬を貰う。せやけど、いくら貰えるかはわからん」
「わからんってどういうことだよ?」
「報酬がいくらになるか決められてないんや。雇われ先のギルドパーティーの良心と
「……な、なんだよそれ。アンタらはそれでいいのかよ」
「ええもなにも、昔っからあることや。闇金が昔からあるように、あぁいう場所も昔っからある。需要や需要……あぁ、話が反れたな。そのオコボレ貰ってた奴がな、フェローチェ・パーティーのアジトの近くを通りかかったときにその会話を偶然聞いたらしいんや。んで、大勢がワラワラ動くんも見たらしい。……この話を一か八かでクエスト先のギルドパーティーに売り込んだらしい。値段付けてフェローチェをバカにできる材料を与えたってことや」
「そ、そんなのでお金になるんですか? ならなさそうな……」
「ならなさそうやったけど、うまくいったみたいやな。お陰でフェローチェ・パーティーの面目は潰れかけとる。妹のほうが貴族相手に資金調達してるみたいやけど、まぁ貴族からしても失笑もんやろうなぁ」
シャチハタはクツクツと笑う。
ここまで来るとフェローチェがいかに嫌われてるかがわかるというもの。
奥に座って仕事をしていた年配のギルド職員と何度か目があったのだが、彼を止めるような動作は一切ない。
ギルド職員にも嫌われるギルドパーティーのリーダーの下で働いていたと思うと、今でもゾッとする。
「さて、そろそろ仕事の話しよか。これがリストや。しっかり稼ぎや」
「は、はい。よろしくお願いします」
「ハァ、世知辛いねぇ人間関係って奴は。お、前より数が増えてるぜ。ドカッとやっちまおうぜ」
「焦らないで。私たちに必要なのは経験だよ。強い魔物と戦うだけじゃダメ。色んな状況にも対応できるようにしなきゃ」
今日もまたクエストを受ける。
ふたりでいつも通りに。
そうこうしている間に時間は過ぎて、都市は『祭り』の日を迎えようとしていた。
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