第25話 アンチギルド3人衆
その日の夜。
フェローチェ・パーティーはある人物を追い込んでいた。
「コルァ待てや新人!」
「金返せボケェエ!!」
「ヒィィィイイイ!! ────あっ!」
都市から離れた湿地にて、服も顔もなにもかもをドロドロにしながら追いかけっこをしていた。
だがそこでぬかるんだ地面に足を取られて新人はその場で大きく転倒。
それでも金の入ったカバンを大事に抱きかかえたままで、迫りくるかつての先輩に戦々恐々とする。
「ハァ、ハァ、追い詰めたぞクソッタレ」
「テメェ、組織の金を盗むとかなに考えてやがる!」
パーティーメンバーたちは息せき切って睨みつける。
その眼光に新人は恐怖のあまり股間から漏らしてしまった。
このまま人生を終わってしまうのかと思うと、涙まで溢れかえってしまう。
この金ですべてをやり直そうと思った。
金庫の金を奪おうと、どうせあのフェローチェの妹が貴族から金をせびるのだから。
「う、うるせー! あのアンネリーゼって女を追い出したと思ったら、今度は俺をいためつけやがって! 俺はただ皆のために頑張ってただけなのに無能無能と……俺に恨みでもあんのか!?」
「それは……」
恐怖は徐々に怒りへと変わる。
盗んだことは一旦棚上げ、とにかくこの自分を助けてさえくれなかった先輩連中にこれまでの不満をぶつけた。
「アイツが悪いんだ! こっちがちょっと器用だからってなんでもできるなんて勘違いしやがって。俺は滅茶苦茶頑張ったはずだ! 相応の報酬を貰ってもいいはずだ! そうだ、これは俺の金だ! 俺に支払われるはずの金なんだ! だから俺が全部貰うんだ!」
「なっ! それとこれとは別だろうが!」
「そうだ返しやがれ!」
「嫌だぁぁぁあああ!! 俺のだ! 俺の金だぁぁぁああ!! 俺はこれで人生をやり直すんだぁぁぁああ!!」
────ザァァァァァアアアアアア……。
フェローチェ・パーティーが新人に襲いかかろうとした直後だった。
風もない夜であるはずなのに、湿地に生い茂る草むらと周辺にまばらに生えている木々が揺れる。
重苦しくなる空気、凶悪なまでの重圧。
それらがこの場にいる全員を動けなくさせた。
魔物がこの周辺にいるという情報はない。
しかし急遽として怪異じみた空間へと成り果てた以上、緊張が高まっていく一方だ。
「なんだ……なにが起きて────おい、おいどこ行った?」
後方にいた男が呟く。
すぐ隣にいたメンバーのひとりがいなくなっているのに気がつき、松明で周辺を照らしてみるも、姿が見えない。
生唾を飲みながら振り向いた直後、目の前に現れたのはおぞましい形相をしたメンバーの生首、それを持った"継ぎ接ぎ顔で目を縫い込まれている男"の邪悪な笑みだった。
「────ばぁ」
「ギャァァァアアアア!!」
後方からの悲鳴で一同の心臓は跳ね上がる。
振り返るとすでにメンバーはいなくなっていた。
「な、なんだ! なにが起きている!?」
「戦闘態勢に入れ! 敵襲だ!」
「敵って、ど、どこだ!」
フェローチェ・パーティーは陣形を組んでそれぞれを守るようにするも、突如現れた敵に翻弄されていく。
先ほどの怪人による暗殺は勿論、月光を背に現れた槍使いの女。
バニーガールのような衣装がより本人の狂気を如実にし、殺しもカジノの遊びと一緒と同じと言わんばかりに、陽気な槍捌きで天空に血を捧げていった。
そして真打ち。
かつて『
右肩に取り付けた魔導端末から、追尾能力を持った魔力弾をいくつも放ち、逃げようとするフェローチェ・パーティーをひとりまたひとりと葬っていった。
「こ、このやろぉおおおお!!」
ひとりが鎧武者に立ち向かう。
大剣を手に斬りかかるも、老練にして強烈な斬撃がその命を容易に刈り取った。
抜刀術じみた動きで二刀同時に引き抜き、左で大剣の刀身を斬り飛ばすと右で彼の腹を薙いだ。
一瞬の出来事でなにをされたかすらもわからないような顔をしながら、腹を抑えてヨロヨロと近くの沼まで歩きそのまま力尽きた。
「さすが『フェリクス』の旦那だねぇ。目が見えなくてもわかるよ」
「ねぇ旦那ぁ。今度はアタシとやろうよぉ~。きっと楽しいよ? アンタの悩み、ぜぇんぶ忘れちゃうくらいにね」
「……『モル・モル=ドゥス』、『アミキティア』。金を押収しろ。それが任務だ」
「へいへ~い」
モル・モル=ドゥスという継ぎ接ぎの男は、小動物のように縮こまる新人のほうへ歩み寄る。
気配をおっているのか、わずかな音を聞き取って察知しているのか、あるいは両方か。
「ひ、ひぃい……お、お、お願いします。許して……許してくだしゃいぃぃ……」
「ん~? やかましいな……折角金の匂いに浸ってたのによぉぉ……邪魔だなぁ」
鎌のように前方へ湾曲したナイフを器用に指でスピンさせながら徐々に近づいてくる様に新人は死を直感した。
そして彼らがただの追剥(おいはぎ)ではないことも。
「ま、まさか……アンチギルド?」
「あら正解。じゃあお姉さんがご褒美に槍で突いてあげる。どこがいい? 心臓? 肝臓? それとも脾臓?」
「ちょちょちょ待って待って! 待ってください! 俺はもう関係ないんです! 俺はギルドを抜けた!」
「えぇ知ってるわ。金庫のお金を持ち逃げしたんでしょ?」
「知ってるのなら頼みますよぉ。俺なんか殺したって意味ないっすよぉ~」
「うっせぇなぁ、さっさと殺しちまおう」
「ま、ま、待ったぁあああ!! じゃあ、情報を! 情報をバラします! だから見逃して下さいよぉ」
「情報だと? 若造、お前のような青二才がなにを知ってるっていうんだ? 舐めた真似をするのなら……」
「待ってくださいよぉ~。あの高ランクのギルドパーティーの情報っすよぉ。俺はそこで色々やらされてたからわかるんだ。元はと言えばアンネリーゼって女がへマやらかしたせいで……」
次の瞬間、フェリクスの表情が変わる。
それを察知した新人が地雷を踏んだかとビクビクとしていると、フェリクスは片膝をつくような動作でしゃがみ込み、新人と目を合わせた。
「それは、確かか? お前はアンネリーゼという女を知っているのか」
「知ってるっていうか……まぁ、俺の先達っていうか。パーティー追い出されてからはどこに行ったか……」
そう言いけると、フェリクスは立ち上がり、しばらく考えたあと。
「死にたくないのなら、我々に協力するのだ。そうすれば悪いようにはしない」
「へ? ほ、ホントに……」
「カバンを運べ。ついて来い」
「え~、旦那ぁ殺さないのかよ。……ったく」
「まぁいいじゃない。じゃあよろしくね新人君。ちゃぁんと役に立ったらお姉さんがご褒美あげちゃうわ。女は好きでしょボクちゃん」
「……よ、喜んでお仕えいたしますぅ」
胸を寄せるような動作を目の前でされ、新人の目がギラついて震える。
ゲヘゲヘと笑いながら前を行く3人に着いていった。
(ここでもアンネリーゼの名を聞くとは……ああぁやはり運命だ。この呪わしきワタシに、ようやく運命が傾いたのだ!!)
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