第24話 ヴァレリィに部屋を
「あ゛~疲れたぁ。もう、もう今日は、動けない」
「なんでぇあれぐれぇで」
「んなこと言ったって、私あんなに動いたことないよ」
「カァー! だらしねぇな! それでよく戦闘をこなせてるもんだ。明日からもバシバシ行くぞ!」
「わかってるよ。私だって昔とは違うんだから」
屋敷へと入ると珍しくクライメシアがリビングにいたのでアンネリーゼは小首を傾げる。
なにか用があるのかと思い聞いてみると、手紙のことを早速聞いた。
「ラクリマさんとグレイスさんから!?」
「なんだ? 知り合いからか?」
「そう、私の尊敬する人たち。すっごい美人姉妹なんだよ」
「ほー! 美人と来たか!」
覗きこもうとするヴァレリィをのかして、アンネリーゼは丁寧に便箋(びんせん)を開く。
内容と言い回しからして恐らく書いたのはラクリマだ。
『アンネリーゼ。あれからどう? クライメシアと喧嘩しないで仲良くやってる? 生活とか大変だろうけど、やけになっちゃダメよ』
(まるで母親みたい……)
『ギルドの仕事頑張ってね。身体は壊さないように。ご飯はちゃんと食べること、夜はしっかり寝ること。いいわね?』
(オカンッ!)
『グレイスもクライメシアとやっていけてるかとか、お腹を空かせてないかとかすっごく不安そうだったわ。たまには手紙を出してね? 私たちはアナタの味方よ。またいつか一緒に『
「あぁ、グレイスさんも……そうか、心配してくれてたんだ。ふふふ、手紙出さなくちゃね」
アンネリーゼは微笑みながら手紙を胸に抱く。
ヴァレリィは終始見たそうだったが、大切なものだと知るやさぱっと諦めた。
「手紙を寄越してくれるたぁ、いい姉妹じゃあねぇか」
「うん、私の憧れの人たち。……もっと強くならないと、ね。じゃないと追いつけないから」
便箋に手紙を戻して再び閉じた。
他者から貰った宝物となったこの手紙は大切に保管することに決める。
「じゃ、今日はここまで。ヴァレリィもお疲れ様。ありがとう。クエストのあとで鍛錬に付き合ってくれて」
「なぁに、いいってことよ。ところでよ。俺の部屋ってどこなんだよ」
「あぁ、そうだったね。うん、案内する。……本当に汚いけど平気?」
「だぁから大丈夫だって。野宿よかましだ」
2階の部屋の一室の鍵を開けると、ムアッと埃が舞った。
だいぶ前から掃除しないで放置した部屋に、これから頑張っていくメンバーを住まわせるのは気が引けるが、ヴァレリィはうんうんとうなずきながら室内を見て回る。
「なんか、案外平気そうだね」
「ガキンチョのころ、これよりもっとひどい部屋に住んでた。掃除くらいは自分でやるよ」
「へぇ~。ヴァレリィってどこ出身なの? ここから近いの?」
「あぁ? バリハンダ村ってところだ。聞いたことあるか? まぁねぇだろうな。クソがつくほどの貧乏村だ」
「生憎ね。……でも、すごいね。村人っていう身分で魔術学園に入学できたなんて。魔術学園って貴族とかしか行かないイメージがあったから」
「……まぁそうだな。村の出の俺はそこまで歓迎されはしなかったって話。さぁ、もういいだろ? ちょっと掃除用具貸してくれや。パパッとやっちまうからよ」
「あぁごめんごめん。手伝おうか?」
「いらねぇ」
「わかった。ちょっと待っててね」
パタパタと駆けていき、掃除用具一式を取ってくる。
カーテン、窓を開けて埃を外に、陽の光を部屋いっぱいに入れていった。
ヴァレリィはアンネリーゼのことわりを得て、ひとりで掃除を始めていく。
豪快な性格さながら、その方法もやや雑。
(まぁ、いいか……)
そっとその場を立ち去り、アンネリーゼは地下工房へと足を運ぶ。
服を着替えて、黒いタンクトップにズボンの姿で、台の上に置いた
カンテラの灯によって、壁にかけられた
顕微鏡めいたものがいくつもついたゴーグルを取りつけ、真剣な面持ちで愛用武器の内部をいじりながら、無機質な世界に没頭していった。
無音に等しいこの空間で、絡繰の内部にある世界に浸るのは彼女にとっての癒しそのもの。
どれだけ複雑な構造をしていても、人間以上にシンプルで、正直でわかりやすい。
座禅をする僧のような無我の状態というべきか。
今の彼女に話しかけることは、いつの間にか部屋の隅で座っていたクライメシアにすらできなかった。
なぜクライメシアがそこにいたか。
アンネリーゼには悪いと思ったが、便箋を開けて手紙を読んだ。
その中にもう1枚の手紙が入っていた。
(まぁ、終わってからでもいいだろう。……────二刀流のあの隻眼の男。アンチギルド主義、か)
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