第15話 クライメシアの戦法と二挺拳銃

(短筒持ちのオークがいるだなんて! 命中精度はそこまでだけど、あれがあると厄介ね)


 一度引き金を引けば身体のどこかに当たればそれでいい、というのが今の『銃』と言われる武器の概念だ。


 しかしあぁも口径が大きいと、当たればひとたまりもないだろう。

 迂闊うかつには近づけない強敵が現れてしまった。


「ふむ、丁度いい機会だ。卿よ、わたしがやってもかまわないかな?」


「え、クライメシアが?」


「あぁ、銃を持っている相手など久しぶりだ。多少手加減した動きを見せるから、卿はそれを見て盗むといい。大丈夫だあの程度であれば死にはしないよ」


 彼女のコートの裏側は宇宙にでもなっているのか、妙な空間があった。

 そこからあの長刀を取り出すと、オークの前へと躍り出る。


「我が『深淵刀』、その身に刻ませてやろう」


「グォォオオオッ!!」


 開幕銃撃。

 一定の距離まで出てきた直後に短筒を引き抜き、爆音を上げて弾丸を発射した。


 普通はそれだけでも臆しそうなものだが、クライメシアはまるでその弾丸の軌道が、自分とは外れた場所にいっているのを見抜いたかのように、一直線に向かい横薙一閃。


 ただでさえ洞窟内は薄暗いので、刀身が透明だと見分けがつかない。

 オークはなにをされたかもわからないような声を上げて、切っ先が腹をえぐるのを許してしまう。


 しかしそこはクライメシアの加減か、そしてオークたちのボスゆえか、まだ戦えそうだ。

 斧を振り回し、短筒を変えてクライメシアに挑むも、彼女はひらりと躱しては長身と深淵刀のリーチを活かし、一気に踏み込んで斬撃を叩き込んでいく。


(なんて思い切りの良さ……それだけじゃない。私とは違ってかなり直線的な戦い方。瞬時の脱力から一気に地面を蹴っての肉薄。動作ひとつひとつに迷いがない!)


 今度は斧による斬撃と熱した短筒による打撃の二連攻撃。

 だがクライメシアは余裕の笑みでそれを躱すと、サマーソルトのような動作で、見えない斬撃を浴びせる。

 彼女の深淵刀は武器ごと斬り裂いていた。


「グゴォァアアッ!!」


 斬り裂かれた武器を放すと、二挺短筒に切り替え、その巨体からは考えられないほどの身のこなしでバックステップをすると、銃口をクライメシアに向ける。


(やばい! いくら速くても引き金を引かれたら!)


 しかし、アンネリーゼのそれは驚愕と杞憂に終わる。

 彼女は地面に刀を突き刺すと、自身もまた銃のようなものを取り出したのだ。


 同じく二挺、双方同時に引き金が引かれた。

 互いの銃口から弾丸が飛び出すも、その驚きの命中精度にオークはもちろんアンネリーゼも度肝を抜かれる。


 クライメシアの弾丸はオークの額と心臓部を正確に撃ち抜いていた。

 オークの弾丸は各々別の方向へ飛んでおり、壁にめり込んでいる。


 器用なガンスピンをしたのち腰にしまうような動作をし終えた直後に、かの巨体は地面に倒れた。

 

「うぅむ、興が乗ってこっちも銃を使ってしまったな。だがこれで戦いは終わりだ。卿よ、待たせた。少しでも参考になればいいのだが……」


「参考どころじゃないよ……ッ! 私にとってはすごい収穫だよ! なんていうか……私にはない戦い方というか、新しい可能性っていうか。いや、それ以上にさっきの銃はなに!? あんな精密射撃見たことないんだけど!?」


「卿よ、落ち着くがいい。わたしの銃がそんなに珍しいか? 銃はあまり進化していないようだな。いや、一度『退化』したのか? うぅむ」


「クライメシア?」


「いやなんでもない。さぁ帰ろう。喜べ、卿はクエストを達成したのだ。報酬が出るのだろう?」


「まぁね。でも、最後はクライメシアがやってくれたし……」


「だが、ここまでひとりでやってきた。最後のは講習を受けたという認識でいい。収穫があったのなら、卿はまだまだ強くなれる」


「そう……かな?」


「そうとも、安心しろ。見込みはある。修練がしたければ付き合おう。卿は飲み込みが早そうだからな」


 そう言ってクライメシアはベッドに寝転ぶかのようにアンネリーゼの影へと入っていった。

 彼女の言葉を聞いて、思わず胸が高鳴る。


 見込みがある。

 そんな期待の言葉を投げかけられたのは、どれくらい前のことだっただろうか。


 遥か子供の時代だった気もする。

 なにかをやって褒められた、そんなときに言われて、この日になるまで言われることがなかった言葉。


「明日も頑張ろう! ここから、始まるんだから……私の人生!」


 思いを胸にダンジョンから出ると、すぐさまギルドの受付のシャチハタに報告し、ガッポリと報酬を貰った。


 ジャラジャラと音を立てる銭の音が、どんな音楽よりも心地よく聞こえる。

 時刻は夕方、早めの食事を取って今日は休むことにした。


 明日は朝早くに起きて、修練を積む。

 クライメシアも了承してくれた。



 時同じくして、巨大ギルド都市『ハンニバル』の入り口で"ある男"が夕陽をバックに雄々しく佇んでいた。


「ほ~ん、ここが噂に聞く巨大ギルド都市。俺ちゃんの伝説がここからスタートするってぇわけだ。見てろよ俺をさんざんコケにしたヤローども! ここでバァーンとのし上がってやるぜ!!」


 意気揚々とハンニバルへと入るこの男が、のちにアンネリーゼと出会いともにパーティーを組むことになることはまだ知らない。  

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