孤高の剣士クライメシアは見守りたい。~ということで私はクライメシアと一緒に成り上がりギルドライフを始めます。……ところで彼女の瞳がこんなにも優しいのはどうしてだろう?~
第16話 揺れ動くフェローチェ・パーティーとアンネリーゼの理解者ミセリア
第16話 揺れ動くフェローチェ・パーティーとアンネリーゼの理解者ミセリア
アンネリーゼがDランクの任務を請け負っている最中、フェローチェのギルドパーティーでとんでもない事件が起こっていたのだ。
「大変だ! 金庫の扉が開けられて、金が全部なくなってる!!」
「なにぃ!?」
パーティー内は騒然となり、フェローチェは騒ぎを聞きつけ、金庫のある部屋まで来る。
金銭がごっそりとなくなっている惨状を見て一瞬蒼ざめたが、すぐに茹でダコのように真っ赤になった。
「新人ッ!! 新人はどうしたッ!? 昨日アイツに備品整備と部屋の掃除とメンテナンスを頼んでおいた……アイツならなにか知ってるはずだ!」
「そう言えば、今朝から姿が見えないな……朝食にも顔を出さなかったし」
「まさか……アイツ……」
パーティー内のひとりがそう呟いた直後、全員が確信めいた考えを抱く。
彼の部屋まで行ってみるが、もぬけの殻だ。
これまでの仕打ちに耐えかねた新人は、夜逃げした。
しかも資金の持ち逃げという最凶の復讐も添えて。
「捜せぇえええ!! まだそう遠くには行っていないはずだ!! 全員で僕の金を取り返すんだ!! 急げ!」
「ぜ、全員で!? 待てよフェローチェ! 今日はギルドクエストの予定がたっぷり詰まってるんだ。全員行ったらクエストはどうするんだよ!?」
「ハァ!? なんでこんなときにそんなに仕事詰めてんだよ!」
お前がやれって言ったんだろうが。
そう言いたかったが余計に怒らせそうなのでメンバーは黙ってしまった。
しかし周りが喋っても沈黙しても、結局は
「フェローチェ、資金の持ち逃げは立派な犯罪だ。これは公共の機関に訴えるか、それかギルドにクエストとして……」
直後、フェローチェの裏拳がメンバーの顔面を打ちのめす。
尻餅をついたメンバーを見て悲鳴が上がるが、そんなことは気にせず、鬼のような形相で彼の胸倉を掴み上げた。
「ふざけるなよお前……ッ。そんなことでもしたら僕のメンツが丸つぶれじゃないか! 僕を皆の笑い者にしたいのかこのクズ野郎!」
「は、ハァ!? でも、今はそんなことを言ってる場合じゃ……」
「口答えするなッ! 決めるのは僕だ。僕の言うことを聞いていればいいんだ!!」
乱暴に手を放すと親指の爪を噛み始める。
イライラしたときのクセだ。
(妹に相談するか? アイツなら貴族に頼み込んで金を……いや、それじゃまるで物乞いじゃないか!! 違うだろ! 貴族どもは僕の名誉と栄光に対して出資をしているんだ。弱みを見せるなんてもってのほかだ。)
フェローチェの逆鱗に触れたくないと誰もが口を閉ざしたとき、金庫室のドアが開いて女性が入ってくる。
ギルドパーティーの古参のひとり、魔術師ミセリアだ。
魔力の玉が衛星のように彼女の周囲をゆっくりと飛び回っており、その中心であるミセリアのどこか禅的な佇まいが場の雰囲気を一気にやわらげた。
「遠征から帰って来てみれば、一体なにごと?」
「ミセリア、大変だなんだ。新人に資金を持ち逃げされたんだ!」
「なんですって? フェローチェ、アナタは一体なにをしていたの? リーダーでありながら情けない」
「僕のせいにするなよな! 金欲しさに逃げたアイツが悪いんだ」
「本当にお金欲しさかしらね。……ん、そう言えばアンネリーゼは? 姿が見えないけど」
「今アイツなんかどうでもいいだろうが! それよりも新人を捜し出すのが先決だ!!」
「……アナタと言う人は。あの娘を追い出したのね? あんなにも一生懸命に頑張ってる娘を!」
「頑張ってるだけじゃ結果には繋がらないよ」
「結果を出させなかったのはアナタでしょう? なるほど、最近私に高難易度の遠征クエストをあてがうようになったのは私がアンネリーゼを庇うのが気に入らなかったからね? それだけじゃない。あの娘はここへ来てからずっとなにかを悩んでた。なにをしたの?」
「黙れ! 今はそんなことどうでもいいだろうが! それよりも目の前の問題だ!! ……これはパーティーメンバー内の問題だ。ここの問題はここで解決する」
聞く耳を持たないフェローチェにあきれ果てたミセリアは、今の状況を見てこれからすべきことを皆に指示していく。
今のフェローチェにそんな判断能力は皆無だったから。
「────……と、いうわけよ。クエストに行く人たち、新人君の捜索に行く人たち、二手に分かれて行動するの。人員が割かれるからクエスト達成に時間がかかると思うけど、やけにならないように。私もできうる限りのフォローをするから」
「僕はやらないぜ? デスクワークで忙しいんだ。君たち現場と違って」
ようは自室に引きこもるという意味だ。
もうなにも言う気がなくなったミセリアは、それぞれに指示してクエストへと向かった。
本日晴天なり。
されど仲間内に立ち込める暗雲が、栄枯盛衰を暗示するようで気が気ではなかった。
各々が不安に駆られる中、クエストと新人捜しに精を出す。
だが結局、新人はその日のうちには見つからなかった。
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