第13話 危険度Dランククエスト
祖父が使っていた部屋に案内する。
もうだいぶ経つのに、まだ祖父の匂いが残っていた。
アンネリーゼが思い出に浸る中、クライメシアは帽子を胸に、ゆっくりと入っていく。
「あ、あの……」
祖父がまだ元気だったころに使っていた『安楽イス』の前で足が止まる。
「もしかしてそれ、使いたいとか?」
「いいのなら……」
「ここは私のおじいちゃんが使ってた部屋なんだ。使う?」
「故人の部屋だったか。いいのか? まぁわたしがこうして勝手に入ってしまっているわけだが」
「いいよ。気に入ってくれたんなら」
「ありがとう。実際言うとだな……こう、うん、良いんだ。方角的に、構造的に。ただわたしのワガママのために申し訳ない」
「うぅん、いいよ! あ、クライメシアは食事とかどうする? まだっていうか……あれ? 普段なに食べてるの!?」
「わたしのことなら気にするな。別に飲まず食わずでも生きていける。今のわたしにとって味覚の刺激は、趣味のようなものだ」
「へ、へぇ~」
早速安楽イスに座って、その心地よさを堪能している。
日の差し込まない影の部分で、キィキィと軋む音がふとささやかな思い出を刺激した。
しかしこうして座ってくつろぐクライメシアは本当に絵になる。
むしろ今からでもキャンバスを持ってきて描きたいくらいだ。
「卿よ。ギルドとやらにはいついくんだ? わたしも是非同行したい。影の中でだが」
「え、いいの? あ~、お昼食べたら行くつもりだけど……日の光とか大丈夫?」
「確かに日中は動ける範囲が限られる。しかしだからといって卿のみを働かせ楽をしようという気はない。それにだ。卿の戦いを見ていたが、少し
「ほ、ホントに!? クライメシアに教えてもらえるのならなんか心強いよ」
「あぁ、もしも戦闘になって、卿が手こずるようならわたしも戦おう。なに、居候(いそうろう)をさせてもらっている者として当然のことだ」
クライメシアは上機嫌のまま、アンネリーゼの影の中へと入っていった。
軽い食事のあと、ギルドへと向かう。
普段の重々しい足取りがなんだか軽いのだ。
シャチハタのことだから、少しはいい仕事を工面してくれるかもしれない。
そう考えながら、赤いレンガ造りの建物へと入っていった。
「おう、いらっしゃいアンネリーゼちゃん。……あそこ行けへんようになったんは残念やったなぁ。報酬がっぽりやったのになぁ」
「ギルド中枢部の指示なんですよね。じゃあ仕方ないですよ」
「ん~、しっかし妙やな。急に調査を中止するなんざ。……せやけど、中止ってだけやから、また再開するかもわからん。諦めたらあかんでぇ? 折角のガッポリチャンスやねんから」
「まぁお金は大事ですケド……でもそれ以上に、あの光景は忘れられません。いけることなら、もう1回チャレンジしたい」
それは影の中のクライメシアにも語りかけるように。
「ほう、いつになくチャレンジ精神旺盛やな。
「ですよね。わかってます」
そう、あのときはただラッキーだっただけだ。
姉妹にも気に入られはしたものの、アンネリーゼは正式な探窟隊のメンバーではない。
いくら能力を披露したとしても、次も果たしてすんなりと入れてもらえるか。
そもそも、姉妹がまたメンバーに入るのかどうか。
そこのところの調整も詳しいことは不明。
しかし、再開されるその日までに名を上げておけば確率としては非常に高い。
「いっそ冒険者やめて、そういう道で食っていったらええのに」
「いや、私はそういう職人になるつもりは……」
「なんでよ」
「ん~、なんででしょう。以前は祖父の薬のためでしたけど。今は……」
ふと、足元の影を見るも、シャチハタには当然伝わらない。
詮索はしないでおいたシャチハタはリストを取り出した。
「あいよ。これがソロでの仕事ね。……なぁ、やっぱりどっかにパーティー入らんか? ソロやと大変やぞ?」
「いえ、大丈夫です。……あれ? このリストの1番下のって……」
「アッハッハ~、気になるか? このリストの中やったら報酬はダントツ。その分危険度は高い。せやけど、聞いたで? あの中で
「シャチハタさん、ありがとうございます。じゃあ、これを……ッ!」
アンネリーゼは依頼を受注する。
危険度Dランク。
洞窟内に住み着いた凶悪な魔物『オーク』の群れを討伐せよ、とのことだ。
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