第11話 消えたナンバーワン

 そしてその夜バークレーへと急いだ。

『おかあさんこんばんは。こちら結城さんなの。

今日初めてお会いしたんだけど意気投合しちゃって連れてきちゃった』

『えっお母さん?美涙さんのお母さんですか?』

『いいえ、みんなが私のことそう呼んでくれるの。

結城さんでしたね。美涙ちゃんが初めて会った人と飲みにきてくれるなんて

珍しいですよ』

『そういえばママさんは占いの大家だと聞いてきましたが』

『ねえねえおかあさん、結城さん占ってぇ~』

かなり酔いが回ってきた美涙さんが甘えた声で言った。

『あら美涙ちゃん今日はごきげんねぇ。

男性は占いなんて嫌いだとおっしゃる方が多いから・・・』

『いやじゃ見てもらおうかな?』

『わあぁおかあさんお願いしまぁ~す!』

『もう美涙ちゃんたら、まずは手相を拝見しますね。うう~ん』

ママは結城さんの手相を見ながらいつになく難しい顔をした。

『そうね、ちょっと言いにくいんだけどどうしようかしら?

これはあくまで占いなので怒らないで聞いてくださいね。

家庭的に何かあるのかしら?孤独の星が出てるのよ。

それにまだ本当に好きな人と出会えてないかそれとも

人が好きではないって手相だけど・・・。』

『孤独ですか?今までそう感じたことがないなぁ、

それに人嫌いなんて思ったこともないですよ』

と結城さんは笑ったが気のせいかその笑い声が渇いているように聞こえた。

『あら、ごめんなさい。そうですよね。こんなに素敵な男性だもの

女性が黙ってないわね』

とおかあさんは言い直したがなぜか遠い所で警報機が鳴っているような

違和感を結城さんに感じてならなかった。


『美涙さんこれからどこか二人っきりで行かないか?』

と美涙さんの耳元で囁いた。

『えっ?今から?そうねぇ・・・。』

小さな声だったけれどはっきりと誘いの声が聞こえた。

(美涙さん行ってはだめだよ)

結城さんいい人そうだけど今日会ったばかりだし私も内心何かひっかかるものを感じた。

『今日はもう遅いし結城さん、明日早いっておっしゃってましたよね。だから今日は帰りましょうよ』

美涙さんは酔いながらも理性を失わなかった。

その夜はそのまま解散となった。


 翌日も翌々日も結城さんはお店にいらして美涙さんを指名した。

『美涙さん今日これからどこかに行こうよ。今夜は二人っきりだよ』

と結城さんは美涙さんの手を優しく触りながら言った。

『ええ、もう少しでラストなの。待っててくださる?』

『わかった。待ってるから』

そしてその夜、暗闇の中へ二人は消えていった・・・。


 その日から1週間が過ぎても美涙さんは出勤してこなかった。

『店長、美涙さん具合でも悪いのですか?』

『いや、そうじゃなくて、まあそれがだ、連絡取れないんだよ。

自宅まで行っても留守だったし何処へ行ってるのか見当もつかない』

さすがの鬼店長も元気がなかった。

『じゃ無断欠勤ですか?そんな、美涙さんどうしたのかな・・・。』

『美涙さん最近何か変わったことでもあったのか知ってるか?』

『えっ、いいえ、んーどうしよう・・・。別にないと思いますが・・・。』

『何でもいいんだ。美涙さんは無断欠勤する人じゃないから心配なんだ』

『そうですよね。もしかしたら結城さんと関係があるかもしれないですよ』

『えっ!最近来ているあの結城さんか。本当か!もしそうだったら大変なことになった!』

『大変って何が大変なんですか?結城さんって変な人なのですか?』

と店長の顔を見たら苦痛でゆがんでいた。

『そうなんだ。早く気が付けばよかったのだが前に働いてた店で俺がまだボーイの頃、あの男がその店のナンバーワンを引っ掛けて他の店へ引き抜いたんだ。

それも言葉巧みに誘いながら貢がせて、もうその女が気がついた時にはバンスさせれてがんじがらめさ』

『そんな!そんな悪い人に見えなかったしどこかの会社の社長だって言ってたし信じられない・・・』

『それがあいつの常套手段なんだよ。俺も気づいた時にはもう来なくなったてたし何もなかったとほっとしたところだったのに。もっと早く気がつけば。。。』

『まだそうと決まったわけじゃないじゃですか!』

と言いながらも無断欠勤するなんて結城さんが絡んでいるとしか考えられなかった。

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